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電車が好きだった
「俺は電車が好きだ。」
眼鏡をかけた短髪の少年が、スイカにかじりつきながら言った。
「そうか。」
「何だ、反応が薄いな、蓮二。」
蓮二と呼ばれたおかっぱ頭の少年は、スイカの種を吐き出しつつ
汗で張り付く横髪を鬱陶しそうに退けながら答える。
「お前はどんな反応を期待していたんだ、貞治。」
「いや、特には。」
貞治と呼ばれた少年も、どうやら話を続ける気は無いらしい。
「…。」
「…暑いね。」
「…あぁ。」
「…暑さは話す気力を削ぐな。」
「会話が脈絡を無くすしな…。」
8月も半ばに入り、連日続く猛暑が様々な影響を及ぼしている中、やはりこの家の縁側に座っている二人の少年の会話にも、猛暑の影響が出ているようだ。
「…こうも暑いと、頭がやられてしまいそうだね。」
「すでにやられているじゃないか。」
「…。」
「……。」
「……酷いなぁ。」
「事実だろう。」
「…。」
「……。」
「……今日も平和だね。」
「あぁ、…そうだな。」
じわじわと額に滲む汗を手で拭い、二人はまた一口スイカをかじった。
「…なぁ蓮二。」
「何だ、貞治。」
「俺は電車が好きだ。」
「…そうか。」
電車が好きだった
(アイツが好きだと言ったから)
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