虹色の明日へ | ナノ


色の明日へ
2.そして出会う


 ――がちゃがちゃがっちゃん!

「……っ!?」
 どれくらいの時間が経ったのだろう。玄関先に蹲ったまま、ついうとうとしてしまっていたゆずかは、突然リビングのほうから響いてきた大きな物音に、びくっ!と体を震わせた。
 金属音のように聞こえたそれは、痛みを帯びた余韻を残して、静かになった。
「(な、なに……?)」
 自分が眠りこけている間に、リビングと庭を繋ぐ窓から強盗でも侵入したのだろうか。しかし、窓はきっちり施錠したはずだし……。
 と、そこまで考えて、否、とゆずかは首を振った。あのお節介ババアが気づく程なのだ。世間様から見れば、この家には子供しか住んでいない、ということは明白なのかもしれない。ならば、強盗だって狙いに来るだろう。
「(やっぱり、大人が必要だ)」
 ぎり、と悔しさに唇を噛み締めて、ゆずかは玄関先に立て掛けていた箒を手に取った。
 大人をどうするかは後で考えるとして、まずは、侵入したかもしれない強盗を追い出すのが先決。子供の力で、たかが箒ではなにも出来ないかもしれないけれど。
「わたしが、守らなきゃ」
 ――この家を。
 小さく言葉に出せば、ほんの少し勇気がわいてくる気がした。

 リビングへの扉に近づき、中の様子を窺う。聴こえるのは、ゆずかが予想した数よりも多い数人の話し声。それも、全員男性であるようだった。
「竜の旦那に右目の旦那……、それにまさか毛利の旦那までいるとはね。俺様たちをこんなとこに連れ込んで、一体どうしようっての?」
「ah?勘違いするなよ、猿」
「俺たちがテメェらを拐ったところで、なんの得がある」
「じゃあ首謀者は毛利の旦那?」
「フン、我は知らぬ。我を疑うよりも、そこにいる伝説の忍を疑うほうが先ではないのか?」
「な……っ、風魔殿ではござらぬか!」
「……」
 とりあえず会話を聴いてみたものの。ゆずかには意味がさっぱり理解出来なかった。
 連れてきた?連れてこられた?彼らの口振りはまるで、この家に侵入したというより、いつまにか存在していた、とでも言いたげなもの。
 どういうことなのだ、と首を傾げた拍子に、持っていた箒の毛先が床に当たって、かさり、と音を立てた。
「誰だ!?」
「(あ、……っ)」
 リビングの中から、誰何する声が飛んできた。それは思いの外鋭く、ゆずかの身をすくませるには十分なもので。
 それでも負けるわけにはいかないゆずかは、箒の柄をギュッと握りしめると、先手必勝!とばかりに扉を開けてリビングに飛び込んだ。
「や……っ、きゃあっ!」
「大人しくしてもらおうか」
「動いたら殺すよ」
 何が起こったのだろう。足首に衝撃が走ったと思ったら、次の瞬間には床に転がされていた。
 ぴたり、と首筋に当てられているのは、なにかはわからないが、恐ろしく冷たい感触。ゆずかの顔の真横の床を貫いているのは、ギラギラと鈍く輝く刀だった。
「ah?威勢よく入ってきたから何かと思えば……ただのGirlじゃねぇか」
「やめぬか、佐助!相手は幼子、そこまでせずとも良いではないか!」
「旦那は黙ってて」
「政宗様、油断召されるな」
 ゆずかを捩じ伏せるふたりが、きっぱりと答えた。唯一の武器はもう、どこかへすっ飛んで行ってしまった。やはり、大人には勝てないのか、とゆずかは些か泣きそうな気持ちになってきていた。
「死にたくなければ、俺様の質問に答えてくれる?」
「……っ」
 こくりと頷けば、首筋に当てられた冷たい何かが、ほんのわずかにずらされた気がして、ゆずかはホッと息を吐く。
「此処は、どこ?」
「わたし、の、いえ……」
「じゃあ次。あんたが俺様達を此処に連れてきたの?」
「つれてきて、ない」
 そりゃそうだよね、と問いかけてきた人自身もその答えには納得していた。
「いくらなんでも、こんな子供に大の男6人を運ぶ力はないでしょ」
「わからねえだろうが。周りがこんなんなんだ、面妖な術を使ったのかもしれねぇ」
「それは確かにそうなんだけどさー」
 あまりにもただの子供っぽいしねぇ、と首筋の男が呆れたように呟く。刀の男も、彼の呟きにむぅ、と言葉を詰まらせた。
「Hey、小十郎。いい加減に刀を外してやれ。怯えちまってんだろうが」
「しかし……!」
「阿呆か貴様は。此処がその稚児の屋敷だと言うのならば、まずは話を訊くのが先決であろう」
 二人に諭された刀の男は、仕方なく突き刺していた刀を引いた。それに合わせるように、首筋の男もゆずかから離れていく。
 ようやく解放されたゆずかは、うつ伏せの体勢からゆっくりと身を起こしたのだった。
「(……なに、このひとたち)」
 そのまま目線を上げたゆずかは、その大きな瞳を目一杯に見開いた。何故ならば、彼女の前にいる男性達はみな、彼女の常識では考えられない格好をしていたからだ。否、そもそもそれを言うならば、刀を持っていることからしてあり得ないのだけれど。
「なんで、そんなかっこう、してるの?」
「そんな格好?」
「変なの……、テレビでみた、時代劇のひとみたい」
 鎧に、兜。手には槍だの刀だの。三日月みたいな兜を被ってる人に至っては、なんと刀を6本も腰にさしているし、全身緑色に包まれている人は、フラフープのようなまあるい刀?を手にしている。重くないんだろうか、とゆずかはそんな関係のないことを思わず考えた。
「ahー、Girl。時代劇ってのはなんだ?」
「……ずっとむかしの、戦国時代とか、江戸時代とかのおはなしをドラマにしたもの」
「……稚児よ、貴様は、戦国の世を“昔”と申すか」
「だって、ずっとずっと大昔だもん」
 緑の人からの問いかけに、ゆずかがそう答えを返すと、彼らは異常に驚いたようだった。本当か?だの、まさか!だの、そんな反応を見て、ゆずか自身も、まさかの可能性にひとつ辿り着いていた。

 ――彼らは、この時代の人間ではないのではないか?

「えっと、……わたし、倉橋ゆずかです」
 しっかりと正座をし、彼らをじっと見据える。
「皆さんのおなまえを、教えてくれませんか」
 お願いします、と頭を下げれば、彼らは戸惑ったような顔をして、それでも弱く頷いてくれたのだった。


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