虹色の明日へ | ナノ


色の明日へ
9.はじめてのお外


「なんと速き鉄の塊!まるで本多殿のようでござる!!……おぉっ、あの赤や青に光っている物はなんでござろう!」
「旦那!危ないから近づかないで!」
「shit!騒ぐんじゃねぇ真田幸村ぁ!」
「……政宗兄さんもうるさい」
「すまねぇ、ゆずか。政宗様、お静かに!真田、テメェも少しは落ち着かねぇかっ!!」
「(小十郎さんが一番うるさい)」
「フン、阿呆共め」
「(……黙らせるか?)」
 初めての外出、ということで。デパートの開店時間に合わせて、朝も早よから家を出たゆずかと武将達は、徒歩5分の道のりをぎゃあぎゃあと騒ぎながら歩いている。
 ちなみに、彼らはみんな現代風の服装に着替えさせてある。父の服や、母の服、昔はたまに泊まりに来ていた父の弟の服など、家にある物をフル活用したらどうにかなった。
 まあ、多少サイズがあってなかったり、合わせ方がちぐはぐなのはご愛敬。俗に言う“イケメン”である彼らは、その違和感を補って余りあるほどの着こなしを見せてくれているので、特に問題ない。
「就兄さまとコタ兄はおちついてるね」
「フン、我をこやつらと同じにするでないわ。まずは落ち着いて戦況を判断せねば、反応が遅れる」
「いったいなにと戦ってるの、就兄さま」
「(己は、一度見ているから)」
「あ、そっか。こっちに来たとき、コタ兄はそとにでたんだよね」
 冷静組……とはいえ、元就は元就なりに動揺しているらしいが、と会話をかわしていれば、すぐに目的地は見えてくる。
 ゆずかたち家族が住み始めて1年後にできた、このゆずか宅から徒歩5分のデパートは、服から食料品からなんでも揃う場所として、近場に住む住民から愛されている。食料品だけなら、もう少し歩いて、別の安いスーパーに行くのだが、今日はここでいいだろう。
「もう。これからもっとびっくりするものがあるんだから、今からびっくりしてたらつかれちゃうよ」
「ゆずかちゃん、それって例えばどういうの?」
「んーっと、自動でひらくトビラとか、自動でうごく階段とか」
「……俺様、手で旦那の口押さえながら歩こうかなー」
 まだ着いてもいないのに、身がもたない、と肩を落とす佐助に、ゆずかも苦笑する。
「旦那、絶対騒いじゃ駄目だからね!これから行くところは、沢山人がいるんだから」
「む、わかっておる。心配するな佐助!」
「そう言われても心配するって……」
「が、がんばって、ね」
 家を出る前、朝食の時にちゃんと、騒がない走らないはぐれない、の三点は伝えておいたはずなのだが。うきうきする幸村の扱いに困っている佐助を見て、こういうのを苦労人と呼ぶのだ、とゆずかはひとつ学習した。
「……ゆずかちゃん。今、なにか変なこと考えなかった?」
「!な、なにも……っ」
「……そう」

 ――そんなこんなでデパート内部。案の定、自動ドアとエスカレーターに興奮した幸村と政宗をなだめすかし、ファッションフロアにやってきた。
 自動で開く扉はまだしも、勝手に動く階段はさすがの小十郎や佐助、元就に小太郎も驚いたらしく、乗り方におろおろと戸惑っていたのは内緒にしておこう。彼らの矜持の為にも。
「Hum、この辺に置いてあるのは全部着物か?」
「そうだよ。きものじゃなくて、ようふく、ね。……みんな、どんな感じのがいいかなぁ」
「俺が一緒に選んでやるよ。心配すんな、独眼竜は伊達じゃねぇ」
 嬉々として、紳士服のコーナーに突撃する政宗。どうやら彼は、こういう身を飾る物を選ぶのが好きらしい。
「みんなも、すきなのがあったら持ってきてね。あ、見ていいのはこの服がたくさんならんでるところだけだよ」
 他の場所にはいかないように。そう言い置いて、政宗を追いかける小十郎と共に紳士服のコーナーの一角へ。別行動はまずいかと思わなくもなかったが、いくらなんでも、彼らも子供ではないのだ。大丈夫だろう。
「政宗様、ひとりで勝手に動かれては……」
「小十郎の洋服も俺が選んでやるよ!」
「は。ありがたき幸せ」
「(うまくごまかしたな政宗兄さん)」
 お小言が始まりそうだった小十郎をごまかして、政宗はあれでもないこれでもないと洋服を手に取っていく。その楽しそうな様子に、小十郎も嬉しそうに目を細めた。
 やんちゃな弟とそれを見守るお兄ちゃん。いや、むしろ息子と父か。なんとなく、それぞれの主従の関係性がわかってきたゆずかだった。
「小十郎は口うるさいからな……ゆずかも気をつけろよ」
「うん。わかった」
 小十郎が目を離した隙に、ぼそっと呟いた政宗に、ゆずかも小さく頷く。確かに、彼は怒らせないほうが良さそうだ。
「Hey小十郎、これなんかどうだ?」
「……少々派手すぎるかと」
「政宗兄さん、これは?」
「ah、いいじゃねぇか。いいsenseしてるな、ゆずか」
「ん、」
 ゆずかが持ってきたのは、黒地に銀糸で龍が刺繍されたシャツだった。なにげなく手に取った物だったのに、ぽん、と頭を叩かれ褒められて、くすぐったいような気持ちになる。
「あとはこれとこれと……」
「これも悪くねぇ」
「……あまり買いすぎるなよゆずか、政宗様も」
 小十郎の声を尻目に、二人はあれこれと商品を抱えていく。ある程度たまったところで、とりあえず試着してきたら?とゆずかは声をかけた。
「OK、そうするか」
「試着室はあれだよ」
 そちらに向かう二人を見送り。その間に、自分は他の人達を見てこようと歩き出す。
 そうして見つけたのは、両手に服を抱えた小太郎と、その隣を悠々と歩く元就だった。
「こ、コタ兄。その服どうしたの」
「(……ほとんど毛利の物だ)」
「フン、我にかかれば着物を選ぶなど容易いことよ」
「(荷物持ちにされたんだね……コタ兄)」
 きっと小太郎は、面倒なことにならないように我慢してくれているんだろう、とゆずかは思った。元就の好きにやらせていたら、店員をつかまえて荷物持ちをさせることくらいはやりそうだ。
「ふたりとも、自分でえらんでくれてありがとう。コタ兄も、ちゃんとたくさんえらんだ?」
「(……日常生活に支障が出ない程度の量は)」
「じゃあ、ふたりもきがえてきてね。あそこの試着室で」
 試着室を指差せば、元就はすたすたとそちらに歩いていく。それを追いかける小太郎にだけ聞こえるように、ごめんね、と声をかければ、気にするなというように微かに笑みを浮かべてくれた。

 さて、あとは真田主従だけである。どこにいるかな、と周りをキョロキョロしながら捜していれば、チラチラと視界の隅で動く夕陽色の髪。
「佐助さん」
「あ、ゆずかちゃん。竜の旦那のほうはもういいの?」
「うん、みんなえらび終わったから。あとはふたりだけだよ」
「遅くなって申し訳ありませぬ、ゆずか殿!」
「……うん、幸兄。人前ではなるべく“どの”っていうのはやめてほしいな……」
 古風にも程がありすぎて、人の視線がちょっと痛いのだ、その呼び方は。
「しかし、某達を養ってくださる家主のゆずか殿を呼び捨てるなど……」
「そんなの、気にしないでいいのに」
 幸村を見上げて、ゆずかなりに表情が柔らかくなるように意識してみる。服の裾を掴み、ゆっくりと語りかけるように話した。
「わたしは、幸兄と、ちゃんと家族になりたい」
「……っ」
「幸兄がわたしにそうやって気をつかってたら、わたしも遠慮しなくちゃいけないから」
 だから、自然に接してほしいのだ、と。そう訴えれば、幸村は顔を赤くしながら頷いた。
「わかり申した……ゆずか」
「うん。……あ、幸兄たちにもきがえてもらわないと。試着室はあっちだから……いこう」
 服を掴んでいた手を、そのまま幸村の指に滑らせれば、彼は少し驚いた顔をして、それでも、優しく握り返してくれた。
「そうしてるとホントの兄妹みたいだよ、旦那ー」
「ゆずかのような妹なら、何人いても構わぬ」
「だって、ゆずかちゃん。よかったね」
「うんっ」
 いつのまにか強く握られた手は、とても熱かった。


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