なかま3


船内に入って少し歩いたその先。

どこかの部屋の扉が開かれ、その中に入っていくイゾウさんとそれに続くマルコさん。

イゾウさんはベッドの前に着くと、そっと私を下ろしてくれた。

私の涙は、まだ止まっていない。


「……」

「……」

「……」


なきやんでほしいのに。

涙は一向に止まる気配を見せない。


「ほら」


声と共に差し出されたのは、薄い青色の大きめの布。


「これで拭きな。擦るんじゃない」

「あ、りがとう、ございます…」


イゾウさんのものを汚してしまうのではと不安になったが、彼は優しく微笑んでくれた。

その顔が少し困ったように見えたのは、私が中々泣き止まないからだろう。

いい年した大人が、公衆の面前で泣いたなんて…

なんとも情けない話だ。

私は彼の心遣いをありがたく受けることにした。


「………」

「…気を張るな。楽にしてろ」


私は何も言えずに、頷きだけ返した。

彼の声は、言葉はとても強い。

なんと言うか、うまくは言えないが…

心に染みる言葉だ。

少しして、目の前にいたイゾウさんが立ち上がった。


「わりぃマルコ。ここ、頼むわ」

「お前は?」

「…ちょっと。何も言わずに来ちまったからな」

「それなら俺が…」

「いや、いい」

「…そうかよい」


そのままイゾウさんは静かに部屋を出ていった。

ドアが閉まっても、マルコさんはそのドアを…

きっとその向こうを、暫く見ていた。


「……」

「……」

「…ごめんな、さい…」


私の呟きにマルコさんがこちらを向く気配がする。


「…なんで謝る」


困惑のまじった声。

ああ、きっと私…


「勝手に、泣いて…迷惑を、かけてる」


他にも仕事があるだろうに。

私が泣いたばかりに貴重な時間を無駄にさせてしまった。


「迷惑なんて、誰も思ってねえよい」


ふう、と息をはいて、マルコさんが近づいてくる。

そして私の目の前に来て、目線を会わせるようにしゃがんでくれる。


「記憶を無くして、怖いのはお前だろ?」


甲板で聞いたのとは別の、少し小さくて穏やかな声。


「寧ろ泣いてくれたから、俺は安心したよい」

「…え…?」


言っている意味がわからず、涙を拭っていた手を止めてマルコさんを見た。


「失礼な話かも知れねえが、記憶を無くして平然としてるなんて…人間じゃねえんじゃねえかって、ちょっと疑ったよい」


確かに失礼な話だ。

だけれども。

私だって同じような光景を目の当たりにしたら、そんな風に思ったかもしれない。

そうか。

これは、怖さからくる涙だったのね。


「だから」


マルコさんが手を伸ばしてくる。

さっきまでの私なら体が少し反応したかもしれないけれど、今はもう…

不思議と怖くなかった。


「泣くのを我慢するなよい」


彼の手は優しく、私の頭をゆっくりと撫でた。

ああ。

あんなに冷たかったこの人の声が…

今ではとても、あたたかく感じる。

その暖かさが少し切なくて、また涙が溢れた。

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