なかま


自分よりも一回り以上大きなエースさんの手。

あたたかい。

自分の手が冷たいだけかもしれないけれど。

彼の手は、とても温かい。


「……」


ジッと。

自分の手を握っている彼の手を見つめていると。


「…あの、さ」

「はい…?」


呼ばれたその声に顔をあげると、困ったような顔をしたエースさんと目があった。


「手、もう良いか?」


……手?


「……あ」


私は自分がエースさんと握手したままだったことを思い出して、スッと手を引いて一歩下がった。


「ごめんなさい」


そう言って少し頭を下げると、エースさんが慌てだした。


「あ、いや!嫌だったわけじゃなくて…!ただ、いつまで握ってんだろうって… 俺から引くのもなんかと… だから…!」


両手を騒がしく動かして一気に話すエースさん。

あげた顔をエースさんに向ける。


「だから、その…」

「…少し」

「…?」


眉を八の字に下げて心配そうにと言うか、困ったような顔をするものだから、誤解を解こうと私も口を開いた。


「少し、名残惜しかったの」

「………」


私の言葉に一同がキョトンとした顔をしていた。

私は目線を下げて自分の手を見る。

温かい彼の手。

もしかしたら私は…


「だから、嫌だったわけではないわ」

「………」

「あなたは、面白い反応をするのね」


言いながら目線をあげる。

すると、相も変わらずキョトンとしたままの顔が見えた。

その顔を見ていたら先ほどの慌てぶりを思い出した。

つい、口元が緩み弧を描く。


「素直な証拠ね」

「!」


ふわふわと心地よい風がふく。

それに誘われるように私の長い黒髪も揺れる。


「ぃ…いや、でもなあ!」


声をあげたのはサッチさん。


「素直すぎるんだよなあ、エースは」

「…うっせー」


言いながらエースさんの肩に腕を回す。

エースさんはどうしてか、そっぽを向いていた。


「あら、素直はいいことよ?」

「ま、そうだけどねー」


サッチさんはそう言ってエースさんを見て…


「………」

「……?」


何故か苦笑した。

エースさんはそっぽを向いたまま。

何か気に触ること言ったかしら。

それなら謝ろうと口を開く前に、体に響く声が聞こえた。


「グララララ!まだまだ子どもってことだなあ、エース」


大きな声に、そちらを向く。


「親父もかよ…」

「俺からしたら」


親父さんはそばにいるマルコさんの方を見て、手を伸ばした。


「コイツも餓鬼だ」

「っ…うるせえよい…」


頭をグリグリと撫で回された上に子ども発言されてむすっとした顔をするマルコさんだが、どうやら嫌と言うわけではなさそうだ。

とても、優しい顔をしている。

二人も、それを見ている周りの人も。

とても優しい顔。

それこそ、海賊じゃないみたいね。

そう。

ここは、家族だから。

ここの空気が温かなものに変わる。

色で例えるなら、オレンジなどの暖色系。

でも。


「……」


何故だか私のまわりだけは、冷たいまま。

寒色系。青色。

その中でも…深い青。

例えるなら、そうね。

群青色。

深海の、色。

私は海のそこから、あがれない。

見えない何かが、私の行方を阻んでいる。

私にはその何かがわからない。


「……」


私はきっと、そこから抜け出せない。

太陽の光を浴びることは、出来ないだろう。

なぜかそう、強く思った。

[ 10/12 ]
[*prevnext#]
[mokuji]

top


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -