かぞく3


「どうだ?覚えられそうか?」

「…頑張るわ」


大変そうだけどね。


「そうか。でもあと2人いるんだよなあ…あ、来た来た!」


サッチさんは目的の人物を見つけたのか「おーい!ビスター」と大きく手を振る。

彼の向く方向に振り向くのと、機嫌の良くなさそうな大きな声が響くのと、ほぼ同時だった。


「っ離せよビスタ!」

「暴れるんじゃない」


見てみると、英国紳士のようなダンディーで大きな男性が小柄な男性を俵の様に担いでこちらに歩いてきていた。


「あの大きい方が5番隊のビスタだ」


サッチさんが耳打ちしてくれる。

おやじさんに負けず劣らず、立派な髭ね。

2人がある程度私の側まで来ると、大きな男性は暴れまくる小柄な男性を落とした。

…表現は間違ってないはずよ。

彼は確かに“落とした”わ。

あ、いや。

よく思い返せば違うわね。

小柄な男性の方が暴れすぎて、下ろそうとしたときに落ちちゃったのよ。

その証拠に大きな彼が「大丈夫か」と聞いてるもの。

でもまあ…どっちにしても痛いに変わりはないわ。

私は尻餅をつく小柄な彼に近づく。

真後ろまで来ると少し横にずれ、目線が合うようにしゃがみこむ。


「大丈夫?」


私の声に、小柄な彼は勢いよく振り向く。

そこで漸く、彼と目があった。


「……」


とくん、と胸が鳴る。


「……」


―――息を飲んだのは、一体誰?


「…大、丈夫?」


なかなか反応してくれない彼に、もう一度聞く。

でも、胸がドキドキして変なところで切ってしまった。

ドキドキ…というのは可笑しいわね。

ときめいているわけじゃないんだから。

でも何故かしら。

胸がざわつくのは。


「…エース」

「ああ!わりぃ」


誰かの声に反応して素早く立ち上がる小柄な彼。

小柄と言っても、それはあのビスタさんと比べたらの話で。

実際彼単体で見ると、がっちりと鍛え上げられた肉体をもつ、立派な男性だった。

癖のある黒髪と頬にある雀斑が、少しだけ幼い印象を与える。

私も彼につられて立ち上がる。

長い黒髪が視界の端でゆらりと揺れる。


「俺は2番隊隊長のエース!ポートガス・D・エース!」


そこまで言うと、彼は頭を腰から90度に曲げて私に手を差し出した。


「よろしく!」


あら。

見かけによらず、礼儀正しいのね。

とても海賊とは思えない。

素晴らしいわ。

一体誰の教育かしら。

私は差し出された手を握る。


「こちらこそ」


そしたら彼も、ぎゅっと。

強く握り返してきた。

あなたも力強いわね。

少しだけ痛いわ。


「私は…ひとみ」


まだ名前を言うのに詰まる私の言葉に、彼は顔を上げた。

その顔は満面の笑みで。

どんな空気も、暖かく包み込んでくれる。

サッチさんとはまた違う。

そんな…

太陽のような人だと思った。

エースさん。

太陽のような人。


「よろしくね」

「おう!」


私には少し、まぶしかった。

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