52.隠す事


ゆらゆらと船が揺れる。

楽しそうだね、モビー。

ガタン


「…?」


なにか、ドアの向こうで物音がしたような…?


「………」


気のせい、かな?


「おーい!さやかちゃーん」

「っ!」


び、ビックリした…

あの声はサッチさんだ。

足音が近付いてきたのがわかるのだが、私はとっさに対応できなかった。

ガチャリと船尾と船内を繋ぐ扉が開く。

そこでようやくハッとして、私は足の上に置きっぱなしのソレのスイッチを切って慌ててポケットに仕舞う。

扉が開ききるのと私が立ち上がるのは、ほぼ同時だった。


「あ、いたいた。どうした?迷ったか?」

「あ、の…」


何をしてたのか言いづらく、迷ったと嘘をつこうか悩んでると。


「あ。もしかして酔ったの?」


眉を八の字に下げて心配そうな声を出すサッチさん。

いい人…!

だけどごめんなさい!

やっぱり言えません!


「ち、ちょっと」


嘘ではない。

断じて。

うん。


「気づいてやれなくてごめんな?」

「い、いえ!もうだいぶよくなりましたから!」

「もう暫くそこに居てもいいよ。落ち着いたらおいで」


そう言ってニッと笑うサッチさんに、罪悪感がわきました。

ごめんなさい。

サッチさんが「じゃぁねー」と笑顔で船内に消えたあと、彼に言われた通り、落ち着こうと少し残る事に決めた。


「…ねぇ、モビー」


決して返ってくることはないのに、私は話しかける。

言葉が返ってこなくても、船だって生きてるんだから。

思いを持ってるんだから。

話しかける理由は、それで十分だ。


「あの時、私を助けたのは君だよね」

『ねぇ』


まだ発達しきっていない。

でもアニメで聞いたメリーよりは低い声。


「なら、あの人も…」


君?

私は、あの浮遊感の後の出来事を思い出していた。








隠す事がうまくなるのは


それだけ相手を思ってるから


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