49.色


「あー気持ちいいー」


酒臭い空気から一変。

船内を抜けてでも来ることのできる船尾。

私はそこに来ていた。


「やっぱり、海のにおいはしょっぱいや」


今は穏やかな波にのって船は進んでいるので、風もちょうど良い感じに吹いている。

ほんの少しふわふわしているのは、揺れのせいだけではないだろう。

匂いに少し、酔ったかな。

初めてここのお酒に口をつけたときは驚いた。

濃度が高い高い。

すぐに飲むのをやめた。

弱いお酒しか飲んだ事がない上に、もし酔い潰れたときにこれ以上誰かに迷惑をかけるのは嫌だったから。

その判断は正解だったようで、火照った体を冷ますためにこうして船尾に来たというわけだ。

それにしても…


『騒ぐよっ!』


あれはなんだったんだろう?

誰の声なんだろう。

高めの、女の人の声のように思えたけど。

あんな楽しいのが、前にもあったって事かなあ。


「んなわけないない」


だってほぼ暗いイメージで過ごしてきたこの私がよ?

いつの話だってんだ。


「………」


いつからだろう。

物や事柄に対して関心がなくなったのは。

いつからだろう。

私の世界が彩りはじめたのは。

一度何もかもに無関心になった私だけど、ある月を境に急に明るくなった。

たくさんの色が見えるようになった。


「あ…」


そうか。

ちょうどワンピースを知ったときだ。

どうやって知ったかは覚えてないけど、そのあたりを境に私は無関心から飛び出した。

この世界は、私にとってすごく特別な存在。

まあ、想像と違う性格のキャラには驚かされたけどね。

特にマルコさんとか。


「あ゛ー…」


手すりにもたれ掛かってだらんとだらける。


「あ、」


そこでここに来た目的を思い出した。

しまった。

考え事してたからすっかり忘れそうになった。


「ちゃんと話さなきゃね」


私は壁を背にして座り、ポケットに入っているものを取り出した。








色をくれたのは


あの世界だった


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