44.焦る


side Marco


「あいつは考え過ぎなんだって」

「…みんなシカトとか酷い」


落ち込むサッチを無視して続く会話に、もう諦めたらしいサッチは拗ねながらも言葉を落とす。


「あれはあれであいつの良いとこだけどな」


その言葉に一同が渋い顔で同意する。

この船にいるクルーは誰でも知っているはずだ。

20年も前からの古株で、この海賊団(かぞく)の長男でもある一番隊隊長は…

誰よりも責任感が強くて。

誰よりも家族を思って。

誰よりも仲間を大切にする。

それ故に一番傷ついているのも。

それが当たり前になってしまっていることも。


「たまには気を抜けばいーのにね」

「だな」


自然と、皆の視線が船内に集まる。

イゾウだけは、吐き出した紫煙が夜空に消えていくのを1人眺めていた。










音を出さないように。

静かに廊下を歩く。

段々と遠くなる宴の騒ぎを耳に入れながら、俺は少し考えていた。


「………」


何故今、船内に入る必要がある。

トイレか、もしくは…

まあそれを決めるのは見つけてからでも遅くはないだろう。

見聞色を使うまでもなく、さやかは簡単に見つかった。

というより、声がしたから居ることが分かっただけで姿は確認していない。

船内を抜けた船尾。

何故そこにいるのか、分からなかった。

普通なら食料庫や武器庫、船長室か或いは俺の部屋…

調べるなら場所は他にもあったのに。

何故船尾なんだ。

それもわざわざ船内を抜けてまで。


「さっきね、抜け出してきたんだ」


どうやら誰かと話しているようだ。

やっぱり、そう簡単に信じるのは駄目なんだ。

現にこうやって、こそこそと…


「……、」


俺は船尾に続く扉に近づく。


「勝手に歩き回って、たぶん怪しまれちゃうな…」


恐らくあのマルコさんあたりに、と。

笑いを含んだ声で呟くのが聞こえた。

分かってるなら何故抜けた。

俺は扉横の壁に背中を預けて、静かに、目を瞑った。

良いか悪いか。

何者なのか、見定めるために。








焦ることは


あらゆる危険を伴う


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