38.笑う


side Marco


「マルコ」


低く、凛とした重低音が体の芯を揺らす。


「なんだよい、親父」


近くに座る親父を見上げる。

ああ、大きい。

本当にこの人は“おおきい”。


「そう気を張るな」


その一言の裏にどれだけの言葉が隠されているのか、俺は知っている。


「たまには休めよ、マルコ」


イゾウが言ったその言葉も、きっと親父の言葉に含まれている。

…休めるか、よい。

口には出さなかった。

この船で俺が少し休んでも、別に支障はないだろう。

だがそれは…

いつもなら、の話だ。

今は違う。

得体の知らない奴が増えた。

大丈夫だと断言できるまで、俺は疑い続ける。

それは、この大きな人を守るため。

大切な仲間を守るため。

大切なアイツとの約束を、守るため。


「……?」

「…どうした?」

「いや…何でもないよい」


約束、か。

未だに忘れない。

他は、全て忘れてしまったというのに。

その約束だけは。


『約束だよ?マルちゃん!』


頭に響いて、離れない。

もしかしたら夢かもしれないが。

何故か大切だと思っている。


「柄にもねえ…」

「あん?」

「……いや」

「…そうかよ」


それ以上喋らない俺に、イゾウは肩をすくめて酒を呷る。

しばらく飲んでいると、バタバタと煩い足音が聞こえてきた。


「親父さまー!」


犯人はそう、さやかだ。

なんだってんだよい。

予想通りだが…

今、来て欲しくはなかった。


「親父ー!」


…エース、お前もかよ。


「さやか、挨拶はすませたのか?」

「あ、バレてました?」

「グララララ!俺に隠し事なんざ、100年早ぇよ」


親父の言葉に「ですよねー」と笑うさやか。

よく笑う奴だよい。








笑う顔が


歪まぬよう、せめて…


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