35.なりたい 夜。 空に瞬く星とこの船以外は闇に包まれたよう。 真っ暗。 闇か。 怖い、なあ。 アイツを思い出す。 「………」 「さやか」 浮かんだ顔を消すようにぶんぶんと頭を振っていると、親父さまに呼ばれた。 「はーい」 誘われるままに親父さまのもとに駆け寄る。 周りには美味しそうな料理の数々。 サッチさん達が頑張ってくれたんだって! それも私なんかの為に! いやあ、嬉しいですなあ! 親父さまの足下まで来ると、目で合図をされる。 その意味がなんとなく分かった私は、親父さまと反対の方を向く。 周りには沢山のクルーがジョッキ片手にこちらを見ている。 私は深呼吸をすると大きく息を吸う。 「はじめまし、て?」 で、あってるよね。 「さやかです!拾ってくれてありがとうございます!お世話になります!みんなのことはある程度知っているつもりです!好きな人はいぞ……とにかく沢山います!」 「今イゾウって言い掛けただろ!」 俺じゃないのかチクショー!と。 誤魔化したのに聞き逃さないサッチさん。 「イゾウさんは好きを通り越して目に入れるのも勿体無いんです!あ…また余計なことを…」 私の最後の呟きにドッと笑いが起こる。 イゾウさんは相も変わらずクツクツと笑っている。 何が面白いんだコノヤロウ。 私は至って真面目であるのだぞ。 なりたいんだ 守れるようなヒーローに [*prev|next#] [mokuji] top |