24.願った


side Izou


「辛いんだろ?」


そう言って目を細め、ニヤリと笑ってみせる。

大抵の女はコレをすれば落ちちまう。

だが、どうだ。

確かに真っ赤な顔をして照れてはいるが、真っ直ぐに見つめてくる目は、まだ強い。

ははっ、こいつぁ面白ぇ。

それに、目の端に写る奴の何とも言えない顔も。

ああ、楽しいなあ。


「俺なら…」


俺なら忘れさせてやれる。

言いかけていったん言葉を切る。

そして別の言葉を選んだ。

言葉っつうのは大事だぜ?

与える印象も意味も、相手が変われば変わっちまう。

似たようなものでも、ちゃんと選ばなくちゃあいけねぇ。


「俺が全部、忘れさせてやるぜ?」

「っ!?」


分かりやすいくらいに動揺するさやか。

その少し開いた口から漏れる声。

周りの反応に、奴の顔。

こみ上げてくる笑いを止める方が、大変だ。

そうして俺は甘い空気を漂わせ。

さあ、仕上げだ。


「忘れちまえよ」


微かに動揺する奴を横目に、さやかにそっと顔を近づける。

胸に置かれたさやかの手が、俺の服を軽く握る。

そして耳元で、静に。

低く。甘く。妖艶に。

女が落ちる、止めの一撃を。


「なあ、さやか」

「っ&@$*£$@&#¢$§%&*@#£!?」


それは見事に、命中した。

声にならない声で叫んださやかは俺を力一杯押しのける。

今度は逆らうことなくさやかから離れた。

さやかはそのままふらふらと後ずさりすると、ドシンと尻餅をついた。

真っ赤な顔で。

両耳を塞ぎ。


「…ぁ…」


俺は大きく一歩前に出てしゃがむ。


「…い…」

「ん?」


呟かれた言葉に首を傾げる。

きっと今、俺はもの凄く良い笑顔なんだろうなと、ふと思った。


「っ…いやあぁぁぁぁぁぁぁああ!!」


叫んださやかは親父の元へ(正確には座っている親父の足の後ろへ)逃げていった。


「ククッ」


本当に、楽しいなあ。

笑いが止まらなくなるじゃあないか。








願ったんだ


忘れたくないと


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