29.笑み


しかしエースくん、君は一体何をしたんだい?

マルコさん能力使ってないはずなのに、青い何かが背後で揺らめいてるんですけど。

なにコレ怖い。


「お前、昨日提出予定の報告書はどうしたよい」


その一言にさらに大きくエースの肩が揺れた。

あれま。

それは仕方がないよエースくん。


「いや、それは…」


汗ダッラダラのエースくん。

そして子犬のような目で私を見つめた。

ぐはああっ!

かわいい…!

可愛いよ…!

可愛いけれども!


「…っ」

「…、」

「…っ」

「…っ」


見つめ合い、格闘を続けること数秒。

ガタリと音を立てて立ち上がったのは私。

エースくん…

私は今のマルコさんに逆らう気はありませんので…!


「ごめんなさい…っ」


まるで泣いているかのように口元を手で覆って食堂から脱出する。

だって今逆鱗に触れたら私、確実に明日の朝日が見れない気がする…!

途中で名前を呼ばれても振り向かない。

私は一生、貴方のことを忘れないわ…!


「って、勝手に人を殺すなよ!!……ぎゃああああああ!!」


口に出ていたらしい私の言葉にツッコミを入れたのを最後に(勝手に最後にすんな!!byエース)、エースくんの叫び声が響いた。

食堂の扉を閉める直前に見た光景。

それは何ともまあ、恐ろしいものだった。

怖い。

やだ。

何あの人。

マルコさんマジ怖い。

何アレ、ホラーじゃん。

一種のホラー映像だよ。

お天道様も吃驚仰天よ。

日、沈んでないじゃん。

明るいうちからホラーなんて、ごめんだ。


「…甲板に行こう」


私はさっさと避難するのだった。








笑みを浮かべたままほど


恐ろしいものはない


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