19.質の悪い


そこでちょっとした遊び心が芽生えた。


「貴方のこと、信じてたのにっ」


どこかのドラマのかと思われる台詞。

立ち上がって眉を寄せてそう言えば、ポカンとした間抜けな表情が見えた。

口元を両手で押さえ、涙(半分はガチ)を溜めた目でサッチさんを見ている。

このまま逃げて茶番劇終了!の予定だった。

…はずなのに。

走り去ろうかと一歩後ろに下がったとき、後ろから伸びてきた手に手首を掴まれた。


「なら、俺にしとけよ」


どこから出てるのか疑いたくなるほどの、色と艶のある声。

低いのに、どこか甘さを持っていて…

掴まれた手首を引っ張られ、方向転換させられる。

トンっと衝撃がしたかと思えば、目の前には逞しい胸板が…

…は?胸板?

目の端に見えるのは、桃色。


「悲しいんだろ?」

「…ぇ…」


腰に当てられた手が少し力を増して、手首を握っている手は、また私を引き寄せる。

この人…

なんか、ノリノリなんですが…!

掴まれていない方の手で一応押し返してはいるが、そんなものではビクともしない。


「辛いんだろ?」


赤く塗られた唇が緩く妖艶に弧を描き、細められた目には真っ赤な顔の私が写る。

ま、まずい。

この人めっちゃ楽しそうなんですけどぉぉぉぉ!?

本当にまずい。

逸らさないと。

そう思うのに。


「俺なら…」


その声が…

吐息が…

近すぎて、息が詰まる。

逃げられない。


「俺が全部、忘れさせてやるぜ?」

「っ!?」


ちょ、ちょっおぉぉぉぉぉぉぉぉぉお!!

どっから声出してんスかアンタ!!


「…ぅ……ぁ……」


その空気さえ、甘くて。

私にはとても、耐えられるものじゃなかった。


「忘れちまえよ」


彼の顔が私の耳元に近づく。

そして静に。

低く。甘く。

私に止めの爆弾を落とした。


「なあ、さやか」

「っ&@$*£$@&#¢$§%&*@#£!?」


私のキャパオーバーで、この茶番劇は呆気なく終わりましたとさ。

めでたしめでたし。








質(たち)の悪いもの


分かっていてすること


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[mokuji]

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