15.目に


side Marco


静かな空間に、俺の声が響く。


「俺は、」


こいつは、

何もできない。

己の命だって…


「………」


ジッと俺の目を見る親父。

俺も、逸らさない。


「反対だよい」

「お前が守ってやれば問題ねぇだろ。マルコ」

「っ」


心臓が大きく鳴るのがわかった。

親父はまるで、全てを見透かした様に言う。

そんな声で、名前を呼ばないでくれよ。


「……、」


きっと…

きっと親父には、叶わない。

黙った俺に、親父はもう何も言わずさやかを見た。


「さやか、俺の娘になるか」

「わ、私…」


一瞬、チラリとこちらを見られた気がした。

無意識に、舌打ちする。


「勝手にしろよい」


投げやりに言った。

耳をすまさなければ聞こえないほどの声。

本当に小さく呟いたはずだった。

しかしさやかの顔が途端に明るくなり、その笑顔のまま。


「親父さまの、娘になりたいです!」


すかさず俺は口を挟む。


「俺は認めてねぇからな。覚えとけよい」

「別に良いもん!親父さまさえ私を信じてくれたなら、十分ですから。バナナみたいな兄貴は願い下げですよー」


舌を出して言うガキに、その舌を切ってやろうかと殺意が芽生えた。

そんな俺の心など知らず、さやかは親父に向き直った。


「親父さま。ふつつか者ですが、どうぞ宜しくお願い致します」

「グラララ!さまは辞めろ」

「…親父、さん?でも親父さまとしか言ったことがないからなあ…」

「グラララ…もう、なんでもいい」

「はーい!親父さま!」


喜ぶさやかの周りにわらわらとクルーが集まる。


「良かったなさやか!」

「いらっしゃいさやかちゃん!」

「歓迎するぜ、さやか」

「ありがとう!エースくん、サッチさん、イゾウさん!」


初めは不信感を抱いていた奴も、警戒してた奴も、なんだかんだでさやかを歓迎している。

そんな中、親父が叫ぶ。


「家族が増えた!ヤロウ共!歓迎の宴だあ!!」

「おおぉぉぉぉぉ!!」


騒ぎに騒ぎまくるクルーに比べて、俺はその場から動かないでいる。

素直に喜べない俺は、酷い男なのかねい。


『死ぬなら海が良いですね』


あの時のさやかの台詞が。

あの穏やかすぎた顔が。

頭からずっと、抜けないでいた。








目に焼き付いたあの姿を


忘れぬように


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[mokuji]

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