11.好き


side Marco


少しして、女の、大きく息を吸い込む音が聞こえた。


「お初にお目にかかります」


丁寧な言葉遣いが、静かな空間に響く。


「あぁ」

「私の名はさやかです。私は…異世界から来ました」


さやかと名乗った女は、ここに来る前に何をしてたのか、何があったのか、分かっていることや分からないことなど、俺たちに話したことよりも少し詳し目に親父に話した。


「どうして私がこの世界のことを知っているかというと…」


そこまで言うと、あたりをキョロキョロし始めた。

何かを探しているようだ。


「鞄、ありません?」


さやかの話を興味ありげに聞いていたクルーたちが、鞄?と辺りを見渡す。

俺はそういえばと足元を見た。

少し大きめの肩に掛けるタイプの鞄がそこにあった。


「…これかよい」

「あ、それです!」


俺はその鞄を拾って、近づいてきたさやかに鞄を投げる。


「わわっ!危ないじゃないですか!大事に扱って下さいよ!大切なものしか入ってないんですから」

「知るかよい」

「心が腐ったバナナさんですね」

「テメッ!」

「きゃー怒ったあ!」

「グラララ!元気な小娘だ」

「小娘じゃありません。さやかです」

言いながらさやかは鞄を開けて中身を漁る。


「エースくん、来てもらっても良い?」

「…俺?」


呼ばれたエースが隣に来たのを見てから、さやかは親父を見る。


「この世界は、私たちの世界からしたら物語の中なんです」

「ほう」

「その証拠がコレです」


そう言って親父に見せたのは本。

その表紙には、見覚えがあった。


「はっ?ルフィ!?」


そう。エースの弟。

麦わらのルフィ。


「この本は漫画と言われていて、人物や情景など、セリフや心情以外を絵で表したものです」


さやかは手に持つ漫画を開いて見せた。


「そしてコレはタイトルをONE PEACEと言い、エースくんの弟であるルフィが主人公のお話なんです」

「ルフィが…」

「とても面白いお話で私はすごく好きですよ!勇気を貰いますし憧れます!ルフィはとっても強く優しい人に育ってます」

「そうか…!」


さやかの言葉に嬉しそうに顔を輝かせるエース。

話し始めた時よりも、さやかの声が大きくなる。








好きなのだと


眩しい笑顔で言っていた


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