10.大事なもの


side Marco


「あ、の…」


顔1つ分くらい下から聞こえた声に下を向く。


「あぁ?」

「夢、とかじゃ」

「あるワケねぇだろうよい」


何言ってんだ?

変な奴だよい。

その夢だと思っていた“ワケあり”な話を聞いてみると、嘘かどうかも判断しにくい突飛な内容が女の口から出てきた。


“異界人”


そんなものが、そんな事が、あり得るのか?

あるはずがない。

いくらこの海が不思議に満ちあふれていようとも、誰がこの女の話を信じようとも、俺は…

俺だけは疑わなくちゃいけない。

親父を、家族を守るために。


「マルコ!」


だから俺は、この女を疑う。

女の目が閉じ、その手に力が入らないようになった時、俺たちのよく知る気配が後ろから近づいてきた。


「おいマルコ」

「…親父」

「離してやれ」


なん、だと?

離す?

この怪しい奴をか?

ずっと近くで気配がしたから話は聞いていたのだろうとは思うが、親父は信じるのか?

…確かに、嘘はついてないと思う。

こんな女があんな馬鹿げた嘘を言うとは思えない。

ましてやほいほいと嘘を言うような奴に見えない。

だが。


「早くしねえと死んじまうぞ」

「……チッ」


腕を少し下げて首元を掴んでいた手をパッと離した。

女の体はそのままどさりと床に落ちる。

すぐにサッチが近づこうとしたが、エースの方が早かった。

お前らも、甘ぇよい。


「ゲホッゲホッ…っ…」


大きく息を吸い込んで目から零れ落ちた、生理的に出たのだろう涙をそのままに俺を睨みつける。

そしてそのまま言いたいほうだい、怒鳴られた。

少しの言い合いの後、「親父さまに聞いてもらう」とズカズカと、いつの間にか甲板に集まった大勢のクルーの間を割って親父の前へ行く女。

俺は2人が見える壁際に移動した。


「おっきい…」

「マルコにあんな態度とるたあ、とんだじゃじゃ馬だなあ小娘」


親父がよく使う大きな椅子に座りながら言うと、それ以降女は黙りを決め込んだ。

あんなに意気込んでこれか。

まあ、たいていの奴はそうだろうな。

いざ本人を目の前にすると声が出なくなる。

何も言わない女に、親父は頭を撫でた。

あれをされると、俺たちでも安心する。

そのおかげか、固かった女の表情が柔らかくなった。


「…やっぱり白ひげは、偉大で憧れです」


そう言った声には、少しの影があった。


「グラララ!とんだ殺し文句だな」


気づいてないのか気づかないふりなのか、親父はそう言って笑った。








大事なものを守り抜く


たとえ世界が牙を剥いても


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