09.漸く


side Marco 


騒ぎが聞こえたのは、やっと報告書の確認が終わり、食堂でサッチの入れたコーヒーを飲んでいる時だった。


「…なんだよい」

「敵襲か?」

「だとしたら相当な馬鹿だよい」

「行ってみるか?」

「…はぁ…」


別に行く予定はなかったが、気になってしまったのでコーヒーを飲みほす。

ゆっくりと立ち上がりポケットに左手を入れて歩く。

後ろからついてくるサッチの足音をぼんやりと聞きながら甲板へ出ると、左端の方に人だかりが見えた。

近づくと得体の知れない女がエースに抱きついていた。

エースは驚きで固まっているようだ。

情けない末弟だ。

たかが女一人に。

俺は近づいて拳を振り上げる。


「何してんだよい」


言うのと同時にそれを下ろすと涙目の女が振り向いた。

しかも今度は俺に抱きついてきた。

いきなりのことに加えて俺の話を遮る女は今までいなかったため、驚きで固まった。

サッチがエースを呼ぶ声で我に返ったが…

1番隊の隊長ともあろうものが…

人のこと言えなくなっちまった。

「これで私、死んでも良い…!」

「!?うおい!縁起でもねぇこと言うなよ!」

「………」


不思議な女だと思った。

外見は細くなければ綺麗なわけでもない。

至って普通。平凡。

だがころころと変わる表情。

抱きついてきた顔は嬉しさからくるものだと分かるくらいで、殴られれば本気で怒った顔するし、イゾウが悪戯で追いつめただけで真っ赤になって目に涙を浮かべるし。

親父や隊長達の名前を呼ぶときの笑顔、俺に壁際に追いつめられて焦る顔、能力者かと聞かれて驚く顔、何かを思い出している顔に間抜けな顔。

まるで百面相だ。

面白いと言えば面白いかもしれない。

だが今は何者かも分からない、得体の知れない奴だ。








漸く出逢えた


もう二度と、はなさない


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