東一番の悪


ここは“東の海”。


「また値上がりしたの?」


船に響く声は唯一の女性、航海士ナミのもの。


「ちょっと高いんじゃない?あんたんとこ」


それに困ったように「クー」と返事をするのは、新聞を持ってきた鳥。


「こんど上げたら、もう買わないからね」


ぶつくさ言いながらもちゃんと金を払うと、鳥は逃げるように飛び立っていった。


「なにを新聞の一部や二部で」


一連の行動を聞いて、呆れたような声を出すのは、狙撃手のウソップ。


「毎日買ってるとバカになんないのよ!」

「お前もうアーロンから村を買い戻すために金集める必要ないじゃないか」


この船は数日前、ナミの故郷であるココヤシ村を出たばかり。

ココヤシ村のある島一帯を支配していた、魚人海賊団のアーロンを倒したことにより、彼女はアーロンのために金を集める必要がなくなったのだ。


「あんまり金金って言うのも…」

「バカ言ってるわ。あの一件が済んだからこそ、こんどは私は私のために稼ぐのよ」


文字どおり胸をはって。

ナミはきっぱりと言った。

そしてその顔は緩み…


「だっておしゃれもできないようなビンボー海賊なんてやだもん」

「おい騒ぐな!!おれは今必殺“タバスコ星”を開発中なのだ!!」


ナミの言葉に被さるようにそれを止めたウソップは、己の新兵器の開発の最終段階に差し掛かっているようだ。

しかしハートを飛ばしてきゃっきゃと喋るナミは聞いてはいない。

それも気にすることなく、ウソップは赤い玉に、同じく赤い液体を注ぎ込む。

それはタバスコだった。


「これを目に受けた敵は、ひとたまりもなく…」

「さわるなァ!!」

「うわァ!!」


ウソップの声がかき消されるほどの大声が響く。

鈍い音と共に男がウソップ目掛けて飛んで…

…ぶつかった。


「ぎいやあああああ!!」


注いでいたタバスコがぶつかった衝撃でウソップの目にはいると、彼はたまらず痛みに叫ぶ。


「何だよ。いいじゃねェか一コぐらい!!」


抗議の声を上げたのは、今さっき飛ばされたこの船の船長…であるはずののルフィ。

彼は目の前にあるみかんを物欲しそうに眺めている。


「だめだ!!」


反対の声を上げたのは、ルフィを蹴り飛ばしたコックのサンジ。


「ここはナミさんのみかん畑!!このおれが指一本触れさせねェ」


そのみかん畑を守るように立って、どんと胸をはる。

その口にはいつもの如く、タバコがくわえられていた。


「ナミさん!恋の警備万全です!!」


辺りにハートをまき散らしながらアピールするサンジ。

それに応えるのは、先ほど買った新聞を読みながら満足げな顔をした小悪魔…あ、失礼…ナミだった。


「んんっ!ありがとサンジくん」

「いいように使われてんな。あいつは」


呆れたように呟くのは、剣士のゾロ。

彼は相も変わらずいつでも寝れる体勢だ。

彼が目線を動かした先には、未だに走り回るウソップの姿。

そしてなぜか嬉しそうなルフィの姿。


「ぎいいやああああああ!!」

「あー!いよいよ“偉大なる航路”だ!!」


…この船は自由である。


「…しかし世の中もあれてるわ。ヴィラでまたクーデターか」


新聞をめくって目をとおしていくナミ。

ウソップは冷やした布で目を押さえている。

そんな時だった。

ヒラッ…と、めくった拍子に新聞から何かが落ちた。


「ん?」

「ん?」


首を傾げるナミとウソップ。


「ちらし?」


ルフィの言った“ちらし”を覗き込む3人。


「あ…」

「あ…!」

「あ!」

「ぐー…」

「お」


何かに気づいたのか。

声にならないナミ。

驚くウソップ。

目を見開くルフィ。

…寝てしまったゾロ。

目を細めてようやく見えた見えたのか、小さく声をもらすサンジ。


「「あああああーっ!!!!」」


見事に声が重なった瞬間だった。

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