冒険の夜明け3


とある小島。

穏やかな気候で鳥のさえずりが聞こえる。

その島に綺麗な海が波打つ砂浜がある。

そこにひとりの少女とひとりの男がいた。


「ありがとう。タカさん」

「お前は未だにその呼び方を変えるつもりはないのか」

「ふふふ。昔からですよ?そう変えられるものじゃありません」

「………」


まだ若々しい少女の笑顔と、そこそこの男性のしかめっ面。

なんともミスマッチだという事に、2人は気づかないのだろうか。


「礼はいらん。お前の母との約束だ」

「…律儀なんですね」


ふふ、と笑う少女。


「…じゃあおれは行く」


ばつの悪い顔をしながら自分の小さな船に向かって歩く男。


「さっきのガレオン船、まだ追うんですか?」


さっきのというのは、ここに来る前に進行の妨げになったある海賊の艦隊の残りのこと。


「ああ」

「別にいいって言ったのに…」


少女は思った。

眠りを妨げられ、進行の邪魔になった。

まあ私がぶつかって海に落ちそうになったのは自業自得なのだけれど。

それがこの男の癇に障ったのだろうが…

正直やりすぎだ。

少女は考えるとため息しか出ないこの現状に呆れていた。


「一歩間違えれば…」

「あー!もう大丈夫ですっ」


過保護なのは昔から全然変わらないなと、少し笑みのこぼれる顔を隠す少女。


「………」


そういえば、いつもつまらないと嘆いていたなと少女は思い出した。


「…楽しみが、見つかると良いですね」

「…? そう見つかるとも思えんがな」


不思議そうに眉を寄せる男に、もう笑う顔を隠すのをやめた少女。

その姿にまた、男は眉を寄せる。


「母が行けと言ったんです。この海できっと何かが起こるんですよ」


私はあなたと母の言うことだけは絶対信用できると信じてますから、と。

少女は偽りのない笑顔を男に向けた。


「ふん。ならいいがな」


そんな少女に言って軽く頭を撫でた男は、自分の船に乗り込んだ。

少女は自分が押そうとそれに近寄る。


「いい」

「いえ。私がやりたいんです」

「……勝手にしろ」


男の言葉にまた笑みが浮かぶ少女の顔。

少女は深呼吸をすると、船に手を添えた。

少女が体重をかけるとふわふわと揺れる小さな船。


「…ありがとうございました。ミホークさん」

「!」

「帰りはお気をつけて」

「…あァ」


言い終わらないうちに目一杯の力で船を押す少女。

足が海に浸かろうとも、船の底がが砂から離れるまで押し続ける。


「…さようなら」


船が砂を離れて海を進み出したとき、少女の小さな言葉が男の耳を掠めた。

船が少女の手から離れる。

ふわりふわり。

ゆらゆらと。

船は海を漂う。


「………」


少女は強く、前だけを見る。


「…風邪を、ひくんじゃないぞ」

「!!」


今まで笑顔だった少女の目から、涙がこぼれ落ちる。

男はフッと笑うと進行方向に向いて座る。


「…っ…はい!!」


空は快晴。

カモメが気持ちよく飛ぶ。


「私はいつかっ!!」


穏やかな波。

魚は自由に泳ぐ。


「必ずあなたを 越えてみせます!!!!」


元気な声が、大海原に響いた。

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