東一番の悪3


会議室から廊下に出たところで、明るい声がした。


「あ、テンリさん」

「ん?あァ、お前はガープんとこの…」


声をかけてきたのは海軍本部中将であり、“英雄”とも言われているガープの部下。

いつもと違い、今日は将校の証である正義のマントが風に靡く。


「リリシアです。お疲れさまです」


リリシアは踵を揃え、きれいに敬礼をする。


「ん。ご苦労さん」


ひらりと手を振って歩き出したテンリに続いて、リリシアも一歩後ろを歩き出す。


「今日はセンゴクさんと一緒じゃないのですか?」

「あー…あの人は今外出中だ」

「なるほど…」

「おかげで雑務は全部私に回ってくるんだ。全く面倒な…」

「まあまあそう言わずに。俺もジ…ガープさんのせいで予定が滅茶苦茶に…」

「あー…お互いドンマイだな」

「全くです」

「ところでお前、どっか行くのか?」

「…ちょっと、“東の海”に」

「…ほう。何か気になることでもあるのか?」

「あ、いえ……まあ…」

「まあいい。センゴクさんが帰ってきたら私から伝えよう」

「あ、ありがとうございます…!」

「ほら、見えた」


そこはいつもなら訓練に使われる広場。

なぜか将校が揃っていた。

特に気にすることもなく前に視線を戻すと、広場へ向かう通路を進む2人の向かい側から小走りで来る人影が。

その姿に足を止めるリリシア。

つられてテンリも足を止める。


「リリシア中将。上着をどうぞ」


リリシアの部下である軍曹から手渡されたのは、真っ白なリリシアの上着。


「ありがとう」


リリシアはマントを脱ぐと、その上着を羽織る。

これがいつものリリシアの格好。

リリシアがマントを羽織ることは珍しいのだ。


「曹長が既に出航準備を整えております」

「ご苦労さま。あとは休んでていいよ」

「はっ!!」


前は開けたままだが、きちんと上着を着たリリシアがテンリに向き直り敬礼をする。


「俺は、もう行きます」

「あァ…」

「中将、お気をつけて…!」

「ん」


軍曹の声に軽く手を挙げて応えると、集まった将校達の横を走り過ぎるリリシア。


「行ってらっしゃいリリシア中将!」

「リリシアさんお気をつけて!」


気づいた将校達が挨拶する声が響く。

塀を飛び越えて街に消えるリリシアを見送ると、テンリは広場の横を通り過ぎる。

リリシアは身体能力が高い。

それに直線距離が、一番楽だから。

そんな理由でいつも街を飛び回るリリシアの姿は、もはやこの街の名物でもある。

突然。

ざわざわとしていた広場がシンと静まり返った。

広場に響くのは中将の声。


「逃げたい奴は今すぐ逃げ出せ!!ここは一切の弱み許さぬ海賊時代の“平和”の砦っ!!」

「………」

「民衆がか弱いことは罪ではない!!正義はここにある!!」


聞き飽きた言葉を耳に入れる度に、テンリの表情が“無”へと変わっていく。


「強靱な悪が海にあるならば、我々海軍がそれを全力で駆逐せねばならんのだ!!」


海賊が悪で海軍が善だと、一体誰が決めたろう?

そんなもの、もうわかりはしない。

誰も知るわけないのだ。


「“絶対的正義”の名のもとに!!!!」

「「「はっ!!!!」」」

「…正義、ねェ」


テンリはひとり小さく呟いた。

街を突っ切り、港にとまっている軍艦に降り立ったリリシアもまた、同じことを考えていた。


「…正義……」

「あ、リリシアさん」

「あァ、曹長。すぐに出航してくれ」

「わかりました」


命令を受けて素早く行動にうつす曹長。

リリシアはひとり、船首へ行き海を眺めていた。


「さて。ようやく時代が、動き出す」


“奴ら”を、ちと拝見するか。

リリシアの声は、波音に消されて響くことはなかった。

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