「うみだぁぁぁああ!」

「……よい」


何だこの温度差は。

学校関係者に見つかると不味いので少し遠出をした。

水城もそこは分かっているらしく、長い車の移動も楽しんでいた。


『ふ〜ふっふふ〜』

『ご機嫌だな』

『海なんて久しぶり!』

『そうかよい』

『そうだよい』

『まねすんな』

『だが断る!』

『…はぁ……』

『よいよい!』


そして着いたらこのテンションだ。


「きれいだね!」

「ああ」

「せんせーもっとはしゃごうよー」

「何でそんなにはしゃげるのか聞きたいねい」

「楽しいもん。ほら!」


楽しそうに笑ったかと思うと、近くの塀によじ登り(スカートなんだから少しは慎めよい)大きく息を吸った。


「うみぃぃぃぃぃぃいい!!やっほー!」


いや、それは山だろ。

水城はそのあと叫びまくり、案の定叫びすぎて咳き込んだ。


「…ったく、お前はバカだねい」


膨れる水城に、近くのコンビニで買ってきたジュースを渡して隣に座る。


「成績は悪くないよ?」

「…そうだねい」

「え、なに…?」


ジリジリと詰め寄る俺と、身を引く水城。

俺は水城の顔に手を伸ばす。


「俺を嵌めれる位だもんなあ」

「いひゃいお〜(痛いよ〜)」

「痛くしてんだから当たり前だろうよい」

「まうひゃんのいひあう〜きいう!(マルちゃんの意地悪〜鬼畜!)」

「どうとでも言えよい」


手を離してやると摘んでいて赤くなった頬をさすってそっぽを向く水城。

まだまだ子どもだねい。

そう呟くと一瞬こちらを睨んで、またそっぽを向きジュースを飲みはじめた。


「…拗ねてんのかい?」

「…ケホッコホッ」


…図星か。


「……だもん…」

「あぁ?」


聞き返した俺に「なんでもなーい」と寝転んだ水城。

服汚れるのは気にしないのか?


「…せんせーのばーか」


目の上にそれを隠すように腕をのせた水城が悪態をつく。


「バカで結構だよい」

「………」


静かになったので海に視線を移す。

まだギリギリ入れる温度だからか、サーフィンをしている奴がちらほらいる。

それを眺めること数分。

こいつがこんなに静かだなんて珍しい。

寝てるのかと思いチラリと横目で見たときだった。


「…ケホッ…」

「……」


おい。

今のは咽せてないよな?


「水城」


名前を呼ぶと目元を隠した手がピクリと反応した。


「お前まさか…」


そこまで言うと水城が足を振り上げた。

そのせいでスカートがふわりと舞う。

足を下ろした反動で起き上がると。


「なあに?」


こちらを向き笑顔で問う水城に、ほんの少し眉間に皺がよる。


「…いや…」


言うべきなんだろうが、何故か口に出せなかった。


「変なせんせー」


クスクス笑う水城は勢いよく塀から飛び降りて海の方へ歩いていった。

俺も二人分のペットボトルを掴むと立ち上がり、水城を追いかけるために歩き出した。

その本人は少し肌寒い潮風を受けながら、気持ちよさそうにくるりくるりと回っている。

それを見ていると、昔聞いたある童話の一つを思い出した。

よく覚えていないし合っているか分からないが、原作は確か親不孝な少女の話だ。

幼くして母を亡くした貧しい少女は偶然出会ったお婆さんに育ててもらう事になるが、きれいな赤い靴の虜になってしまい履いてはいけない場所でもその靴を履き続ける。

寝たきりになったお婆さんをほったらかしてその赤い靴で舞踏会へ出かけるが、不思議なことに勝手に足が動き出して靴を脱ぐことさえ出来なくなる。

そうして死ぬまで、永遠に踊り続ける呪いにかかった。


「赤い靴、か…」


恩を忘れた怠慢な行動。

自分勝手な少女に与えられた、呪いという罰。

たしかそんな、悲劇な話だったねい。

まあ、俺はオリジナルの方を聞いたんだが…

誰が言ってたのかねい。

そっちも、少女の悲劇な話だった。


「……、」


一瞬…

砂浜でくるりくるりと回る水城がその少女のように思えたのは、きっと気のせいだ。

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