日曜日。

時計台の目立つ駅前を過ぎて公園に着いたのは10時10分前。

赤く色付き始めた木々で覆われた、ある程度広い公園の中に入る。

日曜だからか家族連れと子どもが多く見られる。

それでも普段よりは、だ。

普段は年寄りが散歩する程度。

子どもはあまり見かけない。

裏は池があって危ないし、駅の近くだから煩いしな。

目当ての人物がいないかと辺りを見回していると、子ども達の楽しそうな笑い声が聞こえた。


「お姉ちゃんもっと高くー!」

「いっくよー…それぇ!」

「わあ!」


動く度に裾がゆらゆらと揺れる。


「お姉ちゃん次僕も!」

「違うよ私だよー!」

「違う、俺だ!」

「こらこら後ろに来ないで。順番に並ばない子はやらないよ?」

「「「な、並ぶっ」」」

「はは、素直でよろしい!」


白いワンピースに紺色の長袖の上着を着て、下はロングブーツ。

腕まくりされた袖から伸びるのは、少し日焼けした、でも白くて細い腕。

ブランコのまわりで五人程度の子どもに囲まれて楽しそうに笑うのは、俺の探していた人物。


「それっ!…っと、わわっ!」


自分の方に来るのを避けたせいでバランスを崩した水城。

その体を支えるように横から腰に腕を回す。


「ったく、危なっかしい奴だよい」


衝撃を覚悟して瞑った目を開いて俺を捕らえたかと思うと、水城は花が咲くように笑った。


「あ!マルちゃん!」

「だから誰がマルちゃんだよい!」

「だからマルちゃんはマルちゃんだってばー…あだっ」


立ち直させた直後にそんな事を言うから、俺は容赦なくチョップを落とした。


「むぅ…いったいなあ」

「はんっ。自業自得だよい」

「…ねえお姉ちゃん、その人だあれー?」


水城のワンピースの裾をクイクイと引っ張って俺を指差す子ども。

他の子も「だあれ?」などと水城にまとわりつく。

その中の一人の少女が思い出したかのように顔を上げて俺を指差した。


「あ!かれしさんでしょ!」「なっ!?」


なんでこんなガキの年でその言葉を知ってる!?

誰だそんな言葉教えたのは!?

違うと言おうとした俺よりも先に、水城が腕に絡み付いてきた。


「そー見えるー?」

「「「うん!」」」

「だって!マルちゃんまだ若いよ!」


確かに若く見られるのは悪くな…って!

そういうことじゃねえ!!

よかったねーなんてほざいていっそう引っ付いてくる水城を、俺は引き剥がそうとする。


「なっ、水城…やめろよい」

「でもね、残念ながら彼氏じゃないんだー」

「無視するなよい!」

「そうなの?」

「そーなの。でも私は好きなんだよ?」

「「「へー」」」


いや“へー”じゃねえよい!


「じゃあ僕も好き!」

「私もー」

「僕も!」


どこで育て方を間違えた!?

どうやったらそんな思考回路になるんだよい!?


「マルちゃんモテモテだね。私妬いちゃう」

「冗談きついよい…」


ガキは予測不能。

行動も発言も。

これだから俺は…

ガキが苦手だよい。

…早く立ち去りたい。

今すぐに立ち去りたい。


「じゃあ私は行くね?」

「「「えぇぇ!」」」

「もう行っちゃうの?」

「…お姉ちゃん…」


眉尻を下げる子ども達。

水城は俺から離れ、子ども達の前にしゃがみこむ。


「私ね、先にこの人と約束したから。ごめんね?」

「約束…?」

「そ。大事な約束」

「……、」

「…じゃあ、いいよ」

「ふふふ。ありがとう」


いい子ねと、やわらかく笑って子ども達の頭を撫でる。

全員撫で終わると俺の横に来て「行こう?」と目で合図してきた。

後ろを見ながら子ども達に手を振る水城の横を歩いて公園をあとにする。


「あー楽しかった!」

「それは良かったよい」

「マルちゃんはあんまりだったね?」

「あまり小さいのは好きじゃねえよい」

「ふーん?」

「それからマルちゃんでもねえ」

「むー。可愛いのに…」


いや、俺に可愛さを求めてどうするんだよい…


「あ!もしかしてあれ、マルちゃんの車?」


少し興奮気味にこちらを向いて聞いてくる水城が指差したのは青みがかったシルバーの車。

何故分かったと聞くと「マルちゃんっぽい!」と笑顔で言われた。

なんだ俺っぽいって。

二人でその車に乗り込むとエンジンをかける。


「ハイブリット…エコだねせんせー!」

「そうだな」

「車なんて久しぶり!どこ行くの?」

「あー。海」

「海?先生好きなの?」

「まあねい。それに今は季節外れで人がいねぇからな」

「おー成る程!」

「少し遠いが、良いかよい」

「おう!バッチこいだ!」

「…口調。直せよい」


お前は女だろうが。


「はーい」


先ほど動いていたからか、今興奮しているからか、水城の顔がほんのり赤く見えた。


「じゃあ行こう!それいこう!レッツゴー海ー!」


…どこのガキだよい。

俺はアクセルを踏み、ゆっくりと車を走らせた。

初めて見た私服や初めて知った面倒見が良いという一面に胸が熱くなったのは…

きっと気のせいだ。

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