「ああ、俺んとこもイゾウのとこも点数上がってたぜ?エースのやつ」


マジか。

自分のだけではなく他の奴のまで点数をあげてきやがった。


「まあ水城に関しては、俺らのとこはこれ位が当たり前だったからなあ」

「……当たり前…」


あの点数が、か。


「そうまでしたのは、まあ…な。あれだ」


言葉を濁すサッチ。

俺は言わなくてもいいと言うように首を振った。


「…ちゃんとしてやれよ?」

「…よい」


俺は立ち上がり、職員室を出る。

少し歩いたところで水城とエースが並んで話しているのを見つけた。


「んでよ!マルコに吃驚されて、サッチに誉められたんだ!」

「マルコ先生にサッチ先生ね?」


…お前が言えることかよい。


「でもまあ、よかったじゃん」

「おう!ありがとな!あおい!」

「いーえ」


話しかけようか迷っていると、後から追い抜いてきた影が声をかけていた。


「おお、エース。お前テストよくやったじゃねえか」

「イゾウ!だろ?あおいのおかげなんだぜ!」

「へー。ありがとな水城」

「いいえ。エースくんが頑張ったからですよ」

「シシシ!」

「そうだな」


そこでチラリとイゾウがこちらを見た。

…なんだ。


「水城、ちとエースを借りていいか?」

「あ、どうぞ」

「じゃあなあおい!」


笑顔で手を振るエースに振り返す水城。


「親父が誉めてたぜ?」

「マジか!」


そんな会話をしながら歩いていく二人を見て肩を震わせる水城。

きっとスクスク笑ってるのだろうと暢気なことを考えていると、水城がこちらに振り向いた。


「あ!せん…マールちゃーん」

「わざわざ言い直すなよい」


幸い今ここははあまり人の通らない所だから良いが…

いや。

人の通らない所だから、か。

水城が俺に対して砕けた話し方をするのは、絶対に二人だけの時。

…イゾウのやつ。


「マールーちゃーん!」


走ってきて俺の目の前で止まる。

ほんとに目の前まで全力で来るからたまに怖い。


「水城お前…仮にも教師を嵌めるたぁ、良い度胸だねい」

「マルちゃんだからだよー?」


他の人はしない。なんて。

珍しく真顔で言うもんだから、マルちゃんと言われたことに突っ込むのを忘れていた。


「ねえ、先生。約束、覚えてる?」


その言葉に体がピクリとする。


「…ご褒美だろ?今度なんか奢って」

「デートだよー」


続きを言わせまいと繋げて言ったにも関わらず、水城は俺の言葉を遮った。

やっぱり、あれは幻聴じゃなかったのかよい。


「私と一日デートして!デートいう名のお散歩!」


なら良いでしょ?と輝くような笑顔で言う水城。


「……」

「男に、二言は?」

「、…ねえ、よい」


…なんて顔、するんだよい。


「じゃあねじゃあね!んー…今週の日曜日!駅の近くの公園知ってる?」

「あぁ」

「じゃあそこに10時位ね!」

「あぁ…」


返事をするとにっこりと嬉しそうに口角をあげる。

そしていきなり手を掴まれた。

なんだと驚いて引こうとするよりも先に、温かい物が手のひらに置かれた。


「はいこれ!せんせーがこの前飲んでたのと同じやつ!」


勉強に付き合ってくれたお礼だよ、と言って笑う水城に呆然としてると、いつの間にかいなくなっていた。

俺の手にある缶コーヒー。

それはこの間水城の補習をしていたあの日に職員室で飲んでいたもの。


「……」

「せんせー何ぼうっとしてるんですかあ?」

「うおっ…!?…て、サッチかよい」

「よっ」

「…どこから湧いて出てきた」

「日曜かーそうかそうかー」

「テメッ…どっから聞いてたんだよい」

「ん?『あ!せん…マールちゃーん』から」


って、最初からじゃねえかよい!


「…はぁ…」

「そう落ち込むなって!」

「落ち込んでねえよい」


呆れてんだ。

このバカが。


「そうかそうかー」


お前絶対に聞いてねえだろ。


「ん?それ、お前が最近飲んでるやつじゃん」


ここに自販機無いよな?とキョロキョロ見渡すバカに水城に貰ったのだと言った。


「勉強に付き合ったお礼だと」

「へー。律儀な子だな」

「……」

「まあ、頑張れよ!」

「……」


何を頑張れってんだよい…

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