「……と言うわけだよい」

「ま、マルコ…おまっ…」

「ククッ 一杯食わされたな」

「…笑い事じゃねえよい…」


少し前に戻れるなら、俺は面白がって聞き流したあの時の自分を殴りたい。


「…けどいつも赤点なんだろ?」

「ククッ」

「………」


クスクス笑うイゾウを睨んで、俺は赤点の回答用紙の下から紙の束を取り出してサッチに押しつける。

サッチはそれを受け取り、ペラペラと捲りだす。

それを横からイゾウが眺めている。


「わお…」

「ほう…」


それはさっき丸付けし終わった、水城から受け取った30問。

その中には勿論、難問もまぜていた。


「これ、マジ?」

「マジだよい」

「へー、やるじゃないか」


そう。

やっちまったんだ。

あいつは。


「全問正解とはねえ。大口叩くだけあるなあ」

「あー…マルコ…」


机に肘をついて頭を抱える俺に、サッチはどう言ったらいいか迷っているようだ。


「まあ…ドンマイ?」

「こりゃあ、マジで一杯食わされたなあ。マルコ」

「はぁ…」


お前の言葉はいつも、曲がってるようでストレートだなイゾウ。

そんなお前は、嫌いじゃねえけどよい。


「なあマルコ」

「あぁ?」

「別れてからどれくらいたった?」


俺は時計をチラリと見る。

針は5時手前を指していた。


「…2時間、くらいだよい」

「ならもうそろそろじゃねえか?」

「…あ…」


考えてみればそうだ。

30問を1時間足らずで出来たなら、残り70問、単純計算なら2時間ほどで終わる。

やべえ、逃げたくなってきたよい。


「お、噂をすれば。おいでなすったぜ」


イゾウの言葉に思わずビクリとするが、自分でまいた種だ。

そう思い、腹を括った。


「しっつれーしまーす!あ、サッチ先生にイゾウ先生!」

「よう水城!なんだ勉強か?」


サッチは、さも今水城がいるのを知りましたとでも言うような口ぶりで話しかけた。


「はい!マルコ先生に教えてもらってました!」


笑顔で答える水城とそれに続けて話すサッチ。

二人を横目に、またコーヒーを飲む。


「嬉しそうだなあ水城」

「当たり前ですよー。マルコ先生分かりやすいので!」

「そうか」


そう言って微笑むイゾウに「はい!」と笑顔で返す水城。


「ホントにマルコ好きだよなあ」


サッチの言葉にピクリと体が反応する。

…と言うか飲んでいたコーヒーを吹き出しそうになった。

何言ってくれてんだよいサッチ!

水城を見るとキョトンとした顔でサッチを見ていた。

しかしすぐに華やかな笑顔になる。


「もちろんです!あ、サッチ先生とイゾウ先生も嫌いじゃないですよ?」


そう笑顔で言う水城に、ほんの少し違和感を覚えた。


「そりゃ嬉しいな!」

「ありがとさん」


二人は感じなかったのか…?

気のせい、か?


「マルコ先生」

「、なんだよい」


聞く俺に、また紙の束を差し出す水城。


「残り全部、出来ました!」

「…お疲れさん」

「それじゃあ失礼しますね?」


意味ありげな笑みを浮かべ、水城はサッチとイゾウに頭を下げてから、大人しく職員室から出ていった。

何だ今のは…

あれか。

約束忘れてませんよねっつう確認か。

なんて生徒だよい。


「良い子じゃないかマルコ」

「ああ。ちゃんと時と場所を弁えてる」

「……」


分かってるよい。

そんな事ぁ。

結構前から。


「運命の時間だな、マルコ」


楽しそうなサッチの声に思わずため息が出そうになる。

ある意味本当に運命の時間だと、本気で思った。

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