「ククッ」

「…なんだよい」

「いや。今のはその為の補習か?」

「まあねい」

「「だからか」」

「お前らが揃うと気色悪ぃよい…」

「酷ぇ言いようだな」


何か思うところがあったのか、イゾウはずっとクスクス笑っている。

サッチは困ったように眉尻を下げて頬をかいた。


「いやあ、青春だねー」

「はは、水城らしい」

「…何を言いたいのか何となく分かってるが…」

「え、分かってんの…!?」

「ほう、それは以外だな」

「お前らなぁ…」


俺をなんだと思ってんだよい。

思わず呟くと、二人揃って「鈍感な堅物男だろ」と返ってきた。

若干ショックだった。


「で、何で分かったんだ?」


机にある缶コーヒーを飲んでいると、サッチがそんな事を聞いてきた。


「前からおかしいとは思ってたよい」


俺の教科だけ。

平常点を入れたら挽回できるくらいのギリギリの点数を。

去年、担当していた先生が産休に入って、代わりに俺が担当になった時から。

今年担当になってもこの様。


「確信に変わったのは、いつだ?」

「…今さっきだよい」

「「……は?」」


赤点の回答用紙の下にある紙の束とあいつの言葉を思い出しながら言えば、自然と眉間に皺がよる。

拍子抜けした二人の顔が普通に戻る頃、俺は説明を促された。

それはさっき、俺が面談室を出た時だった―――








「うー…チョップまだ痛い…」

「自業自得だよい」


隣を歩くのは俺にとって超問題児の水城。

職員室に戻る俺の後を着いて来るので面談室に押し込もうとすれば「お茶買っちゃダメなの!?先生は私を干からびさせるつもりですか!?」とか言ったので仕方なく10分だけ休憩をやった。


「ねえ、せんせ」

「…なんだよい」

「100問全問正解頑張るね!」

「期待してるよい」

「あ、棒読み!信じてないなー」

「さあねい」

「分かった。100問全問正解して次の中間テストも満点叩き出してやる」

「はっ。お前が全問正解して満点?無理無理」


大体俺のテスト毎回赤点じゃねえかよい。

…ギリギリだが。


「無理じゃないよー」

「じゃあ何で毎回ギリギリ(アウト)なんだよい」

「だって好きな先生に補習で教えてもらえるでしょ?」

「なんだそりゃ」

「私せんせー好きだもーん」

「なら逆に良い点とれよい」

「良い点ばっかは面白くないでしょ?」


なんなんだ、その理屈はよい。


「ねー頑張るからさ、そしたら何かご褒美ちょうだいね?」

「ご褒美だあ?」

「そうだなあ、ご飯奢りとか…」

「出来もしねえのに賭けとかするんじゃねえよい」

「あ!言ったなー!じゃあ本当に両方満点とったらちゃんとそれぞれにご褒美ちょうだいよ?」


頬を膨らまして言う水城。


「とれるもんならとってみやがれ。億が一どっちも満点だったら飯の奢りでもなんでもしてやるよい」


とれるわけがない。

さっきの補修のプリントだって、こいつじゃ簡単に解けねえ問題を数問入れてある。

今成績上位のやつなら全問正解出来るだろうがな。


「億じゃなくて万だよー?」

「それくらい低いってことだ」

「じゃあ約束ね?」

「よいよい」

「男に二言は?」

「ねえよい」

「絶対にだよ?」

「よいよい」

「嘘つかないでね?」

「よーいよい」


あまりにもしつこい言葉に少し面白くなって笑ながら適当に返事をする。

それを後でどれぐらい後悔するのか知らずに。


「絶対に絶対に、ぜーったいにだよ?」

「よいよーい」

「絶対にデートだからね?」

「よーいよ…い?」


ちょっと待て。

今なんつった?


「やった!じゃあ、はい!」

「は?」


満面の笑みで渡されたのは紙の束。

なんだこれ?


「さっき言われた100問のうちの三分の一!」

「は!?」


もう30問終ったのかよい!?

言い渡してから1時間もたってないぞ!?


「残りも今日中に終わらすからね!」


じゃぁねー!と駆けていった水城を呆然と見送る俺。

少しすると頭の中はだんだん冷静になっていき、顎に手を当てて先ほどの会話の違和感を探し始めた。


『じゃあ約束ね?』

『よいよい』

『男に二言は?』

『ねえよい』

『絶対にだよ?』

『よいよい』

『嘘つかないでね?』

『よーいよい』

『絶対に絶対に、ぜーったいにだよ?』

『よいよーい』

『絶対にデートだからね?』

『よーいよ…い?』

『やった!』


「っ!?」


バッと顔を上げたときには、もう水城の姿は無かった。

しまった…

してやられたよい…

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