みんなが街中で遊びやらショッピングやらを楽しむ土曜の午後。

私は今、学校と言われる敷地の面談室と呼ばれる狭い空間の中に閉じ込められていた。

正直かつ端的に言おう。

ただ今超絶暇なのだ。


「せーんーせ!あっそびーましょ!」

「お前シバくよい」


にっこにこの笑顔で言うと、絶対零度の眼差しで即答される。


「えー何でマルちゃん何でー」


目の前で本を読む彼の腕をつんつんしながら言う。


「何でー、じゃねえよい。ってか誰がマルちゃんだ」

「そりゃマルちゃんはマルちゃん!先生しかいないよー」

「先生をちゃん付けするな。なめてんのかよい」

「なめてなんかないよー。むしろ好意があるから愛称で呼ぶのー」


先生以外にちゃん付けなんてしたことないの。

先生以外に愛称で呼んだこともないんだよ?

どうせ知らないでしょ。


「ねーマルちゃーん、暇だよー」

「お前殴るぞ?」

「きゃー、暴力教師ー!虐待ー!」

「棒読みじゃねえか。つかそんな事大声で言うんじゃねえよい」

「やあ!マルちゃんは暴力教師ぃ!」

「……」


ふざけてちょっと大きめの声で叫ぶと、彼の手がこちらへ伸びてきた。


「ひあいひあい!(痛い痛い!)」

「何言ってるか分かんねえよい」


そりゃそうだ!

ほっぺ引っ張られたら誰でもこんな喋り方になるわ!


「ひあいってあ!(痛いってば!)」

「あーあー、何て言ってんだろうねい」

「あうひゃんひおい!(マルちゃん酷い!)」

「誰がマルちゃんだよい!」

「ひほえへうひゃんかー!(聞こえてるじゃんかー!)」


摘まむ力を増した彼の手から逃れようとじたばたするが、全っ然敵わないのだこれが。

いい加減離さないと伸びちゃう。

顔が変形しちゃう…!


「ちゃんと“先生”って呼べたら離してやるよい」

「ひゃあ!(やあ!)」

「ほう…?」


否定をする言葉を言えば、彼の顔がニッタアと綺麗に歪む。


「……あうひゃん、はおあおあい、ひょ?(マルちゃん、顔が怖い、よ?)」

「あぁ、今怒ってるからなあ?覚悟は出来てるんだろうねい?」

「……てへへほ?(テヘペロ?)」

「…よし分かった」


私の頬から手を離した彼は、さっき私が解いていた問題の上に紙の束を載せた。

な…なに、これ。


「追加100問だよい」

「鬼ですか!?」


鬼畜レベル!!

100問って、何それ!?


「出来るまでここから出さねえよい」

「しかも監禁!?」

「…変な言い方するなよい」


彼のチョップが綺麗に私の頭に収まりました。

…痛いです。










 緋色クエスチョン










「…まじ、かよい…」


職員室に戻って暫く。

俺は自分の机で頭を抱えていた。

原因は先程まで一緒にいた女子生徒。


「なんだなんだ?どうしたんだ?」


項垂れる俺に声をかけてきたのは同じ教師のサッチだった。

俺は隠すことなく盛大にため息をつく。


「おーおー、盛大なため息が聞こえたぞ?」


サッチの後ろからひょっこり現れたのは、またしても同じ教師であるイゾウ。


「ため息もつきたくなるよい」

「…またあの子か?」

「あの子って…ああ、水城か」


その名前にまたため息が出る。


「良い子なのにな」

「ああ。文句無しだぜ?」


そうだ。

そこが問題なのだ。

他の教科では誰もが誉める程の優秀ぶり。

人当たりもよく、気さくな人柄は他人を引き付ける。

なのに、だ。

俺は机の上に広がる紙を見る。

それは前回の期末テストとその再テスト。

水城あおいと書かれた横に、赤ペンで大きく書かれた数字に目を塞ぎたくなる。


「こりゃあ」

「あちゃー」


上から覗きこんできた二人も言葉が出ないようだ。


「なんつーギリギリな所を」

「再テストもギリギリだな」


夏休み前の期末テストはギリギリで赤点。

その再テストはギリギリで合格。

それが去年から毎回。

そこまで頭は悪くないはずなのに。


「ここまでくると天才的だな」

「…嫌がらせかってんだよい…」


これが次も続くとなると恐ろしいから、今日はわざわざ時間を割いたってのに。

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