13


どれくらいぼうっとしてたの分からない。

どうやってこの数時間を過ごしたか分からない。

気づいたとき、辺りは赤くなり始めていた。

足音がしたのは、そんな時だった。


「…先生?」

「、…水城?」

「せんせーまだいたんだ。律儀だね」

「…起きて大丈夫なのか?」


タオルケットを肩にかけて入り口から顔を覗かせた水城に問いかけると、中に入りながらまあねと言ってふわりと笑った。

先ほどとあまり変わらない態度に、俺は困惑した。


「…そんな顔、しないでよ」


先生は悪くないんだからと。

そう言って困ったように笑う水城。

俺は、どんな顔をしていた…?

しっかりした足取りでこちらに向かってくる水城。

ソファーの隅に置かれた鞄の中から携帯を取り出すと、数個のボタンを押して耳に当てる。

きっと母親にだ。


「……あ、お母さん?ごめんね仕事中に…へ?終わったの?早かったね」


電話の向こうからは明るい、水城に似た感じの声が聞こえてきた。


「…うん。今家にいる…え、もう着くの?あ、ちょっ…!」


慌てたような声の後に、携帯を耳から離してその画面を睨みつける水城。


「切った…勝手に…」


どうやら話もろくに聞かずに電話を終了させられたらしい。

これは、まずいか?


「…俺、出ようかい?」

「あ、いや…もう遅「ただいま〜」…かった…」

「ねえあおい、家の前に珍しい車が…」


明るい声で話しながらリビングの扉を開けた女性とバッチリ目が合う。

水城によく似た、笑顔の似合う女性。


「…どなた?」


その声に反射的に立ち上がる。


「あ、俺は」

「あ、ら…もしかしてあおいの…」


自分から言う前に何か察したらしい。

確か俺のことは話に聞いてると水城が言っていたからな。

知っていてもおかしくはない。


「お邪魔してます」


軽くお辞儀をする。

帰ってきたのは、やっぱり明るい声。


「あらあらあらあらまあまあまあまあ。いやあ恥ずかしいわ!ごめんなさい散らかってて…!」

「あ、いえ、お構いなく…」


喋り方、か?雰囲気か?

どことなくテンションが水城そっくりだった。


「こんな大人の方だとは思わなかったわ〜」

「お母さん落ち着いてよ」

「もう!呼ぶなら言ってくれたらいいじゃないの!」

「いや、だって急だったし…」

「部屋もっときれいにしといたのに!」

「…聞いてる?」

「ゆっくりしていってくださいね!」

「あ、いや…」

「あれ、私無視?」

「ほらあおい!お茶だして!」

「あ、はい」


そそくさと買い物袋を持って台所に行く水城母に言われるがままに動く水城。

俺はどうして良いか分からず、ただ呆然と立っているしかなかった。


「あ、そこに座って」

「…あぁ」


ダイニングテーブルを囲むように置かれた4つのいすのうちのひとつに座ると、目の前にお茶を出された。


「…どーぞ?」

「…どうも?」


他に俺の横とその前にお茶をおいた水城は、そのまま俺の横に座った。

どうやらそこが定位置らしいんだが…

なんだこの状況。

これ…俺にどうしろってんだよい。


「水城、なんで部屋着なのよ!もう少し可愛げのある服でも着なさい!」


食材を直し終わった水城母がこちらをのぞきながら言う。


「なぜに…」

「まったく、寝起きじゃあるまいし…」

「…寝起きですが」

「…え?」

「…は?」

「……?」

「えっ…と?」

「…なに?」


言いながらお茶を飲む水城。


「いや、反対はしないけどね?」

「…うん。だからなに?」


俺もせっかくだからとお茶を口に運ぶ。


「あなた達、もうそういう関係?」

「「ぶほぉ!?」」

「……?」


いきなりのものすごい誤解発言に、思わず吹き出す。


「ケホッコホッ…!」

「ゲホッケホッなっ…なに言ってんの!?」

「いやだって、あなた寝起きって…」

「だってじゃない!病人が寝るのは当たり前でしょう!?送ってくれた上に看病してくれてたの!」

「病人?…え?そうなの?」

「そうなの!」

「…じゃあ、この方は?」

「学校の先生だよ!ほら、前に言ったマルコ先生!!」


水城の言葉にフリーズする水城母。

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