10


次に部屋を訪れたのはあいつが持って上がるのを忘れた薬を見つけた時だった。

ったく、しっかりしろよい。

水城にむけてなのか俺自身にむけてなのか分からない呟きをしながら階段を上がる。

部屋の前まで来てドアをノックする。


「どーぞー」


聞こえた声にまだ起きてるのかと思いながら中にはいると…


「なーに?」

「なっ!?お前は…っ」

「あ、やべ」


手に持っていた本をベッドの上の台に置いて慌てて布団にはいるが遅すぎる。


「寝てろって言ったろい!!」

「あー、キンキンうるさーい」

「っ…」


じゃあ大人しく寝てろよい!

…頼むから寝てくれよいマジで。


「…はぁ…」

「ため息つくと幸せ逃げますよー」


誰のせいだと思ってるんだよい。


「……ほら、薬だよい」


少し起きれるかと言いながらベッドの脇に膝をつく。


「あ、忘れてた」


よいしょと布団から出てくる水城。

ベッドに座り直して「先に飲み物ちょーだい」と言われたのでペットボトルの蓋を開けて渡すと、水城は一口飲んでベッドの上の時計やらウォークマンやらの置いてある台の上に置いた。

その横にはさっきまで水城が読んでいたであろう本があった。


「…その本」

「あ、知ってるの?アンデルセン童話」

「グリムじゃないのかよい」

「グリムもあるよ?両方読んでみる?」


きっと先生もはまるよ、と表紙を見せてくれた。


「また今度な。ほれ、これ飲んだら大人しく寝ろよい」

「………はーい」


何だ今の間は。


「寝てなきゃベッドに縛ってでも寝かせるよい」

「きゃー、変態だー」

「棒読みじゃねえか」


呆れた風に言うと「わかった」と呟いた水城。

…いやな予感がするよい。

水城は笑顔で後ろのクッションを掴むと、


「きゃー!この人変態よ!」

「お、おいっ」


いきなり大声で叫んだかと思えば、人の顔をクッションで叩き始めた。


「変人変態すけべエロ教師!たーすーけーてー!」

「っ…テメッ」

「わわっ!」


ありもしないことをギャーギャー叫ぶから、頭を叩いて黙らせようと思い、クッションを払いのけて立ち上がった。

そしたらタイミングが悪かったのか払いのけたクッションがペットボトルに当たりぐらりと傾く。


「あ…!」


今ペットボトルのキャップは俺が持っている。

このまま倒れたらどうなるかは明白で…


「…っ」


俺も水城も倒れる前に何とか掴もうと手を伸ばす。

こぼれるな…!!


「…あ、ぶね…」


なんとか倒れる前に掴むことは出来たので一安心。

少しこぼれたかねい…


「…あの、せんせ…」

「なんだよ……い?」


水城の遠慮するような声に、ペットボトルを台の上に置いてから何だとそちらを向く。

声がしたのは…自分の下。

……した?


「……っ、わ、悪ぃ!!」


水城の上に覆い被さるような状態になっている事に驚きながらも、急いで離れようとベッドに付いた右手に力を入れる。

しかしそれは叶わず、少し引いた体は首に回された腕によりまた引き戻される。


「……っ」

「………」


バランスを崩さないために付いた左手のせいで、端から見たら俺が水城を押し倒しているような格好になった。

…なんて顔、してんだよい…

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