9 俺はため息をつくと靴を脱いで水城を抱き上げた。 「家なら一人で歩ける」 「ここまで来たんだ。俺にやらせろい」 「…へーへー」 「お前の部屋は?二階か?」 「…マジか。乙女の領域に足を踏み入れるのか」 「他にどこで看病するってんだよい」 「………ソファー?」 「よし床だな」 「嘘ですごめんなさいマジで勘弁。二階の奥です」 「はじめからそう言えよい」 俺はちゃんと抱えなおしてから二階の水城の部屋へ向かった。 「ほう。きれいじゃねえかよい」 「汚いじゃんか。もう見ないで。マジで死にたい」 「死なせるかよい」 「……」 俺は水城をベッドに座らせると着替えろと言い残して部屋を出た。 最悪だとか呟く声を無視して階段を下りる。 確か一番奥だったねい。 入ってみると、リビングもキッチンもきれいだった。 ちゃんと整理されていて何がどこにあるのかわかりやすかった。 とりあえず飲み物は冷蔵庫で、氷枕はあるかねい。 「…ん?」 突然の物音に振り返ると、リビングの入り口に、部屋着に着替えた水城がいた。 「なっ!?大人しく寝てろよい!」 「…薬と体温計の場所分かるの?」 「……」 それを言われると反論できなくなる。 思ったよりもしっかりとした足取りだったので大丈夫だろうと再び氷枕探しに戻った。 「氷枕ならその下の冷凍庫だよー」 少し怠そうな声の通りに、その下を探してみると案外簡単に見つかった。 振り向くと体温計を脇に挟んだ水城がソファーに座って足をブラブラさせていた。 その横には薬らしき物も置いてある。 なんだか… 「慣れてるな」 「まあ、ね」 「…これを巻くタオルはどこだよい」 「あー、あそこの引き出しのやつ使って」 言われた場所からタオルを取り出しながら思う。 熱が出た時はいつもこうやって、ひとりで対処してきたのかよい。 両親共働きじゃ珍しくない光景だが… ピピッと、俺の思考を遮るように機械音が鳴る。 「何度だよい」 氷枕をタオルでくるみながら体温計を取り出した水城に問うと、軽くスルーして体温計を直そうとするもんだからとっさにその手首を掴んだ。 「ちょっと待てよい」 「はーなーしーてー」 「無理なお願いだよい」 「へーんーたーいーっ」 「結構だよい」 「やーだー」 「逃げるな」 「…チッ」 おい、教師に舌打ちをするな。 その手から体温計を奪い取って見る。 「は…!?」 39度って… 「壊れてるよね、それ」 「んなワケあるかよい」 さっさと上がれ。 安静にしてろ。 そして寝ろ。 早く行け。 二度と下りてくるんじゃねえ。 矢継ぎ早に言って彼女を自室に押し込む。 「もう、だからやだったのにー」 ベッドに腰掛けて体をゆらゆらさせる水城を横目に氷枕を枕の上に置く。 「ちゃんと寝てろよい」 「…あーい」 大人しくポスンとベッドに横になったのを確認してから俺は部屋を出た。 [*prev|next#] [mokuji] top |