「おい、もうそろそろ冷えるから車に…」

「あわっ…!」

「水城…!」

声をかけて近寄るのと、回ってた水城がバランスを崩すのはほぼ同時だった。


「…っ……?」

「あっぶね…」


転けるぎりぎりでなんとか受け止めた俺を誰か誉めてほしいよい。


「あは。目、回ったみたい」

「嘘つけ」

「………」


おどける水城に少しきつい目線をやれば、大人しく黙りそっぽを向かれた。


「水城、お前…」


先ほどの予想が確信に変わった。


「熱あるだろ」

「……、」


水城を支える手から、彼女の体の熱が伝わる。

これはさすがに熱い。


「いつからだよい」

「……」

「いつから気付いてた」

「……テヘペロ?」

「誤魔化すなよい」

「っ…今朝、微熱で…」


恐る恐る開いた口から出た言葉にため息が漏れる。


「何故言わなかったんだよい」

「………」

「……とりあえず、車戻るぞ」


このままじゃ余計に拗らせちまう。

何も言わない水城に自分の上着を着せて抱き上げる。

車まで運ぶと助手席に座らせてやる。


「…少し我慢しろよい」


一言言って覆い被さるように座席の背もたれの部分に手を伸ばして掴み、レバーを上げてシートをすこし倒す。

運転席に座って、少し悩む羽目になった。

おそらく水城はただの風邪だ。

なら病院に行くまでもないだろう。

そもそもこいつの保険証が無いんじゃ行っても…

それに遠出したからこの辺りの病院が何処にあるのか知らない。

ならどうする?


「ケホッコホッ…」

「…大丈夫かよい?」

「………」


コクリと頷くが顔は見せてくれない。

…どうする。

病院に行ったとしてもその後だ。

どこで看病する?

こいつの友達に…教師ならちゃんと面倒見ろってんだ。

俺の家は…もちろん論外。

もう一つ選択肢はあるが…

あそこは流石に…俺が無理だ。

そしたら残るのは…


「……家、送って」

「…お前、家に親御さんは?」


ふるふると横に首を振る。

いないってか。


「いつ帰ってくるんだよい」

「…よる」


マジかよい。

確か共働きで父親はよく出張に行くと言っていた。


『母子家庭みたいなもんだよ』


…だからか。


「………」

「……病院はいい」

「だが」

「家の薬で対処出来るからいいの。…ごめんね、せんせ…」

「…いや、気づかなかった俺の責任でもあるよい」


気づく要素はいくつかあった。

朝引っ付いてきたとき、ちょっと熱くないかと思ったが別のことで慌てたために見逃した。

車に乗ったとき少し顔が赤かったのも気のせいだと思った。

途中で変な咳払いをしていたのも見逃した。

そしてあれは図星だから咽せたのではなく、普通に咳だったのだ。

完全に、俺の落ち度だよい。

また、こいつにまんまと騙された。

咳はずっと我慢していたんだ。


「せんせー」

「ん?」

「家に、送って」

「でも親は、」

「大丈夫。ひとりでできるから」

「……」


どっちにしろこいつの家以外場所はないんだ。

俺は車を走らせた。










「着いたよい」


言われた住所の辺り。

邪魔にならない場所に止めて声をかける。


「ん。ありがとう」


そう言ってドアを開けて出ようとするもんだから慌て引き止めた。


「馬鹿か、一人で行く奴があるかよい」

「でも」

「つべこべ言うな。あの白い家かよい?」

「…うん」


途中のコンビニで買った物が一式入った袋に腕を通し、車を出て助手席に回る。

水城を抱き上げて玄関まで連れて行くと、その手には鍵が握られていた。


「仕事が早いねい」

「あたぼーよ」


いつものような会話をしながら鍵を開けて中に入る。


「…これ、自分で脱げるか?ってかどうやって脱ぐんだよい…」


座らせて足を指さして聞く。

女物の長いブーツ。


「自分で出来るわ。変態め」

「なっ…!」


こいつ…っ…人の好意を…!


「あっちがリビング」


指さしたのは廊下の奥にある扉。

ちょっと待て。


「…俺に入れと?」

「先生なら大丈夫。お母さん許してくれる」


なんでだと問えば水城がいつも世話になってることを知ってるかららしい。

世話になってる自覚はあったのかよい。


「夏休み、先生を招いて教えてもらえって言われてたほどだから」

「マジかよい」

「マジだよい」


真似するんじゃねえ。


「それに…」

「……?」

「……あー疲れた」


会話放棄かよい。

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