GEGEGEnoGE はいセックスしましたよーお。悪くなかったですムフフ。

到着したキバナの家はシックなマンションの一室で、年の割にいい部屋住んでんじゃんと自分と比べて悲しい気持ちになった。
着いてすぐヤるのかと思ったら、常備されているのか良さげなワインが出てきてここでも一杯やることになった。オサレな感じのチーズのつまみまで出てきて、あっという間にボトルの中身が減っていく。こんな風におもてなししてもらっちゃって悪いなあと思いつつ、でもそろそろと流し目に家主を見つめると、キバナももちろんやる気満々で。あとはもう……ね?わかるだろ?


まあセックスしたわけだが、感想としてはなかなかに良かった。何がよかったって……その、テクニックっていうよりサービスがよかった。サービスっていうのも商業的でアレな響きだが、何というか尽くしてくれる……っていうの?とにかく積極的にアレやコレやしてくれたんだよ、うん。

そのおかげでイケメン相手だからっていうのとは別の意味で疲れた。これはごく対等なやりとりなんだから、与えられた分には同じだけのものを返したい。
これはオレの……なんていうか主義みたいなものだ。等価で対等、win-winなやりとりがオレの中では大切なのだ。だからいろいろと気を揉んでこっちも大いに頑張ったので、大変に疲れた。ホテルに帰ることすら出来ず、初対面の人間の家でこうして朝を迎えてしまう程度には。

嗅ぎ慣れない他人の香りと自分のベッドと異なるスプリングの感触に、違和感と共に旅情緒を感じながらまぶたを開ける。昨日のことをぼんやりと反芻しながら布団から顔を上げて、カーテンの隙間を縫って伸びる光を見つめた。

朝だ。
隣にチラリと視線を向ければ、昨夜散々よろしくした男が静かに寝息を立てていた。まだ微睡みを残した頭をゆるゆると動かしながら、あースッキリしたな、とかホテル一泊分無駄にしちまった、とか取り留めのないことを考える。
まあ、家主も寝てるし勝手にアレコレするのも悪いからキバナが起きるまで待ってるか、とまだ寝ていたい気持ちを正当化して再度まぶたを閉じようとしたところで、ベッドサイドの時計が目に入った。時刻はちょうど午前6時を少し回ったところだ。慣れないベッドで早めに目が覚めたみたいだな。……ん?6時……?……7時半……朝食、ビュッフェ……。

「(ア"ッッッ!!!)」

やばいやばいやばい!!ホテルで朝食ビュッフェ(高い)を予約してるんだった!!しかも豪華なことで有名な、かなりいいやつ!時間が!〜〜っあきらめきれねえ!

あわてて起き上がって、キバナを起こさないようにそっとベッドから降りる。大急ぎで身支度すると荷物をひっつかんでテーブルに置きっぱなしになっているカギを手にした。
さすがに無言で出てくのは悪いよな、と室内を見渡す。紙とペンが見つかったのでささっとメモを残してキバナの家を後にした。マジでほんとごめんな!声かけてくれてありがとう!さよなら!

≡≡≡

昨日はいい日だった。トーナメント戦でまたもやダンデに負け、SNSでも厳しいコメントをもらい、クサクサした気持ちで行きつけのバーを訪れた。

オレはゲイだが、いわゆる有名人だから堂々とゲイエリアを闊歩したり人気の有名店には足を運びづらい。だから、たまにこの奥まったところにある玄人向けのバーでガス抜きをするのだ。
この店の客層はイカニモっていうよりは、普段はゲイであることを隠しているようなタイプの客が多い。メインエリアよりも外れにあって外観や雰囲気も落ち着いた感じだから、知ってさえいれば比較的足を運びやすいのである。まあ、だから有名人なオレは声をかけられづらいんだが。
だからその日も散々だった1日の気分を変えるために来店した。それでもやっぱり気分は晴れず、マスター相手にダラダラと取り留めもない話ばかりしていたそのタイミングで、彼は現れた。

もう、好みドストライク!見た目も!声も!雰囲気も!タイプど真ん中だった。
途端に目の色を変えたオレを見てマスターが苦笑する。新顔の登場にソワつく常連客を視線で牽制して心の準備をすると、意を決して自分から彼に声をかけた。
オレが声をかけても驚かなかったから、多分オレのことは知らないのだろう。初手でフラれずホッとしながら、旅先では定番みたいな会話を繰り返す。
彼……ナマエは旅行者で、ゆるい感じにフレンドリーで普通に話しているだけでも楽しかった。誘ってみたら返事を渋られたのでドキドキしたが、無事お持ち帰りしてベッドインに持ち込むことができた!しかも、一夜だけで終わらせたくなくて色々と奉仕したオレにベッドでも積極的に応えてくれて……。

これは脈アリだろ!イケるだろ!
絶対恋人になりたいという想いを胸に抱きつつ、酔いも入っていたからか、そのまま寝てしまったナマエの隣でオレも眠りについたのだった。


そして翌朝。簡単に朝食でも作って一緒に食べようか、休日だから観光地を一緒に案内してもいいかもな、と思いながら隣の男に「おはよ……」と、とびきり甘い声音で声をかけようとして驚きに血の気が引く。ベッドはもぬけの殻で、ナマエの姿は部屋のどこにもなかった。

「いねえ!!ウソだろ?!!」

とっさに最悪の事態が思い浮かんで貴重品の在り処を確認する。財布もスマホロトムもその他も無事であることを確認して、ややホッとしつつも「あああマジかよ連絡先聞いてない!」と泣きたい思いで呆然としていると、テーブルの上にメモと金が置いてあるのに気がついた。慌てて手に取ってそこに書かれた文字を追う。

『キバナへ。ごめん、大切な用事があるのでお暇します。カギはポストの中に入れておきました。少ないけど、これで美味しいものでも食べてください。素敵な夜をありがとう。チャオ!』

何度も手紙を読み返す。テーブルにはちょっと豪華な昼食が食べられるくらいの金額がそえられていて、可愛らしい気遣いに胸がキュンと高鳴った。
心臓にソウルクラッシュを受けたような気分になる。

ちょっとキザったらしいところがチャーミングだ。優しいな……ってそうじゃねえよ!
思えば昨日はほんと最後の最後で超ラッキーだった。あんなど真ん中なやつに会えて、持ち帰れるなんて!こんなにいい感じになったのに。こんな好きになっちまったのに。
つらい。これっきりなんて絶対イヤだ!絶対ぜったいまた会いたい!

手元の手紙を握りしめて新たに決意を固くする。
あきらめきれねえ!!バーに通い詰めてでも絶対もう一回会うんだ!
諦めないことに関しては、オレさまは自信があるのだから。


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