短編
!クラスメイト




「キセクンキセクン、ちょいとそこにおかけなさいな」

「なんすかミョウジっち…変な顔して」

「あ〜ひどいんだァ!俺は傷ついた。深く傷ついた。イケメンの正直な言葉ほど心を抉るものはない。もうだめだお前を刺して俺は生きる」

「生きるんスか。そこは死んどけって」

俺の前の席のミョウジナマエは変な奴だ。初対面でいきなり「ねぇねぇデルモって儲かるの?」ってストレートに聞いてくるくらいには社交性を損なっている。俺ほどではないがそれなりに友人がいるのが不思議なくらいだ。正直言って何故に人並みな人生を送れているのか分からない。そんな俺の貶し気味の視線には全く気付かず、苗字っちは大人しく席についた俺の顔を見つめた。

「黄瀬、俺の所属している部活を知っているか?」

「は…?所属も何も、ミョウジっち帰宅部っスよね?部活行ってるとこ見たことないし」

俺がそう言うとミョウジっちは悩ましげに頭を抱えた後で「そう!ソレ!」と勢いよく人差し指を突き出した。いや、指差すなし。

「高校入学する前からバスケ部に入るつもりで何に迷いもなく入部したお前は知らないかもしれないがな!この学校は部活必須なんだ!そしてそれを知らなかった俺は何もせずに帰宅を謳歌していた!その結果…何が起きたと思う?」

「何が起きたんスか?」

話に合わせて問い掛けるとミョウジっちは芝居がかった動作で大きく身を震わせて「担任の独断と職権乱用により手芸部に入れられたんだ!」と叫んだ。

「しゅげいぶ…」

俺は小さく呟いてミョウジっちの顔を見つめる。そしてフッ、と一呼吸おいてから思いっきり爆笑した。

「ヒッヒヒヒヒ!ミョウジっちが!しゅ、手芸部って!ワハハハ!似合わねえ!サイコー!」

笑いまくる俺を見下ろしてミョウジっちが冷ややかに顔をしかめる。ひとしきり笑った後で「続き聞きたいっス!」と強請れば、口をへの字に曲げつつも続きを語り出した。

「でさあ…俺はその話をこの間聞いたわけよ。そこで部活の顧問曰くこのままじゃ部活出席数少なすぎて成績に響くぞ、と。入学以来一度も行ってないんだから当たり前だよな、と」

「なにそれやばい」

俺の言葉にミョウジっちは「だろ?!」と大きく声を上げると机を叩いた。うるさい。

「それでこの間行って来たわけだよ手芸部に!」

「マジか」

俺が問い掛けるとミョウジっちは自分の鞄の中をごそごそと漁るとくしゃくしゃになった布切れを取り出した。そしてバッ!と俺の目の前に勢いよく広げてみせる。

「まつり縫いマジ難しい」

「真面目にやったんスか!!手芸!」

息が出来なくなるくらい笑う俺にミョウジっちは「ボタンもつけれるようになった」といってボタンのつきまくったハギレを取り出してみせる。もう!もうやめて!俺酸欠でしんじゃう!

「俺のつらみが分かったか?黄瀬よ」
「も、分かったから…やめ…ひぅ…ブフッ」

お腹いたくなるまで笑わされて息も絶え絶えになりながらミョウジっちを見つめる。

「イイじゃないっスか手芸部!楽そうで羨ましいっスよ」

「アッお前手芸部馬鹿にしてんな?編み物とかすげえ難しいんだからな!あと針で指差すとやべえ痛いんだからな?結構刺さってくるぞアレ」

「そのくらい俺らの練習のキツさからしたら屁でもないっスよ!主将超厳しいし!」

「そっか!がんば!」

「ひどい!切り捨てるのはやい!」

俺が愚痴を言うと手のひらを返したようにミョウジっちが爽やかな笑顔を浮かべる。その笑顔に呆れつつも「で、何部に転部することにしたんスか?まさか手芸部を続けるわけないっスよね?」と問い掛けるとミョウジっちはふるふると首を横に振った。予想外すぎる答えに俺は目を丸くする。

「え?なんで?まさかマジで手芸に目覚めたとか…?」

「ちがわい。俺はこのクソすぎる部活の中に大きなメリットを発見したのだよ」

フフンと得意げに鼻を鳴らしたミョウジっちは鼻の下を伸ばして緩みきった笑みを浮かべる。

「手芸部…真面目にやりたくて入った大人しめの女子と楽だから入った派手めの女子が混在してるんだよなぁ。月一の部活動日は参加必須だし!しかも当たり前ながら男子はほとんどいない!正に隠された楽園!ハーレムうはうはだ!」

「今年の抱負は”彼女を作る”に決定だー!」と息を巻くミョウジっちを尻目に俺は表情を消した。ミョウジっちは俺の変化には全く気がついていない。そりゃそうだ、ミョウジっちが他人の機微に気がつくわけがない。ミョウジっちは無神経で鈍感だ。コミュ力はマイナスに近い。だから彼女なんてちょっとやそっとじゃ出来ないのは分かっている。じゃあ、はやくなくていい。確実な方法を、取ろう。

「ふ〜ん…でも、手芸部なら制作作品の発表会とかあるはずっスよねぇ?ミョウジっち、出せるようなもん作れるんスかぁ?」

俺がそう言うとミョウジっちは「ああああ!忘れてた!」と悲鳴を上げた。頭を抱えるミョウジっちを見つめて俺は静かに目を細める。恐らく、これでミョウジっちは手芸部に在籍するのをやめるだろう。漸くボタンつけれるようになった奴が人前に出せるもんなんて作れるわけねぇし。大人しく楽で人が少なくて…男ばかりの部活に入るといい。

なんで俺が特に目立った取り柄もない無神経で社会的応力ゼロなミョウジっちとこうやって”オトモダチ”やってるか。それこそお察しな話っスよねぇ?

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