短編
!TF主
!恋人



ああ、もういいや。
唐突にそんなことを思った。あー、なんかもういいや。飽きた。耐えることに。耐えるっていうのとも違うかもしれないけど。うん。俺は今、抱いていた愛情の分だけ、お前のことを傷つけたい。

「もうお前のこといらねぇわ。ノックアウト」

そう唐突に口にした俺に、ノックアウトは一瞬オプティックを大きく見開いた。不快そうに歪んだ眉が、一瞬で普段通りの表情を形作る。ああ、俺はその表情が嫌いだ。取り澄ました感じの、よそ行き用の猫っ被り。イラついたので思いっきりノックアウトのことを引き裂いてやりたい気分になる。心底から。ボディではなく、スパークを。

「それはどうも。ちょうどいいです」

そう言ってにっこり。完璧な笑みである。でも分かる。お前はきっと憤慨してる。悲しいんじゃなくて怒るんだ。プライド高いからな。自分より先に俺の方から別れを切り出されたのがムカついて仕方ないはず。だってそれってようは俺に振られるってことだからな。自分が振るんじゃなくて。だからさも「ああ、いい厄介払いが出来ました!付き合わされて辟易してたんですよねぇ」っていう態度に出るはず。分かるよ。俺もだから。俺もプライド、すげぇ高いの。

だから許せない。俺よりも特別がいること。ブレークダウンってお前の特別だろ。友人だとか公言しちゃってるし。明らかに態度もくだけてる。気にいらねぇよな。腹が立つ。でも、仲良くするのを止めろとは言えねぇし。嫉妬を丸出しにするのも絶対ごめんだ。俺はプライドが高い。ようはそういうことだ。それでも今まで気にしてないようなフリでやってきたのは、それでもコイツのことが好きだったからで。
でも不愉快さの量が、好意の量を超えた。その一定のラインを超えると一気に全てが忌々しくなる。お前をこっぴどく傷つけてやりたくなった。どうせあいつを越えられないなら、どんな手段でもいいからお前を揺さぶってやりたい。

「思ったほどでもなかった。じゃあな」

そう言い残してリペアルームを後にした。いそいそと足早に向かうのはサウンドウェーブの所だ。ネメシスの管制室に飛び込んで、そのブルーの機体に一目散に駆け寄る。

「サウンドウェーブ、リペアルームの映像見せてくれ。すぐ!」

そう早口に伝えると、付き合いの長いサウンドウェーブは何も言わずに(まあ喋ること滅多にないけど)モニターに映像を繋いでくれた。ドキドキしながら画面を見つめる。少しくらい荒れてるといい、なんて思いながら見つめたモニターに映ったのは、しっちゃかめっちゃかになったリペアルームの様子だった。

『おい!落ち着けって!』

画面越しにブレークダウンの音声が流れる。呆気に取られて映像を見つめていると、画面の中のノックアウトが荒々しくリペア台を蹴っ飛ばした。

『うるさい!なんで私が!スクラップ!鉄屑野郎!』

『そんなに別れんの嫌だったなら引き止めればよかっただろ?!澄ましてばっかいるから…』

『ブレークダウンうるさい!どうせナマエは今頃サウンドウェーブの所ですよ!私よりサウンドウェーブの方が好きだ!知ってるさ!昔なじみ?最悪!』

『今から追いかければ…』

『追いかける?有り得ない!私が何したってんです?!もう何やっても無駄!アレだけそつなく完璧に接してたのに嫌われたらもう打つ手なんてない!分かります?!ないんだ!ナマエのガラクタ野郎!トランスフォームコグが溶解して死ね!』

そう叫んだノックアウトはリペア用のモニターを勢いよくケーブルから引き千切った。細い眉パーツが震えるように戦慄いてオプティックから大粒の液体がこぼれる。あ、ウォッシャー液。

モニターの中でなおも俺を罵りながら機器をぶっ壊すノックアウトを見て、俺とサウンドウェーブは静かに顔を見合わせた。

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