短編
!ビーコン主





私はビーコンだ。それもディセプティコン内では一番肩身の狭いビークル型のビーコンである。
主な任務はエネルゴンの掘削。たまーに運がいいと市街地へのオートボット調査を任されることもあるが、いわゆる典型的な下っ端だ。直属の上司はサウンドウェーブ様だが、普段はもっぱらノックアウト様やブレークダウン様のサポートとして指示を受けている。同じビークルタイプだからなのか最近はお二人の任務に同行して出撃することも少なくない。メガトロン様がご不在の間はスタースクリーム様から直接命令を受けることもあった。何にせよ、戦場では消耗品として扱われることも多い我々は日々危険な任務に事欠かない。

しかし量産型のビーコンとはいえ、我々にもそれぞれ個性というものが存在している。ジェットタイプは少し傲慢だったり、ビークルタイプは脳筋気味だったりする以外にも怠け者や真面目な奴、上官を慕っている奴やイマイチ信用していない奴など個性は様々存在しているのだ。それぞれのスパークは確かに自分自身として脈打っている。だからビーコン同士の間で友情や、はたまた愛情が生まれるのも至極当たり前のことである。


「悲しい」

様々な部品が保管されている格納庫の中。恋人だった機体の腕パーツを抱えてひとり、ひっそりと呟いた。

彼はジェットタイプのビーコンだった。スタースクリーム様直属の戦闘部隊所属で、あの方の無茶な命令から何度も生還している古株の兵士だったのに。なのに何故だ。
破損し、砂埃で汚れたパーツを握りしめてひとり思考する。この残骸は同じジェット部隊のビーコンが回収してきたものだ。余ったパーツは負傷したビーコンたちのスペアパーツとして格納されることになっている。彼はオートボットの迎撃に向かったスタースクリーム様に敵の中、時間稼ぎを命じられ置き去りにされてバルクヘッドに頭部をもぎ取られたらしい。アイセンサーに残っていた最後の映像が、彼の死に際を語っていた。

掘削を任されるビークルタイプに比べて機動力の高いジェットタイプは戦闘に駆り出されることが多い。そのため死亡率が高くなるのは道理だが、あまりにも異常な数値だった。何故私の恋人機ばかりがこうも破壊されるのだろう。
今までに破壊されたのはビークル、ジェット合わせて12機。死に方はみなそれぞれ違うが、どれもスタースクリーム様にお仕えしてすぐだった。確かにスタースクリーム様の任務には重要なものが多い。その分危険度も高いので、仕方ないといえばそうなのかもしれないが。でも、しかし。

「オイ」

背後からかけられた音声に反射的に振り返る。背後に佇む航空参謀の姿にすぐさま頭を下げて礼をした。

「これは、スタースクリーム様」

従順な私の態度に満足そうに口元をつりあげたスタースクリーム様は機嫌良さそうにこちらを見つめてから辺りを見渡す。「パーツ格納庫に一体何のご用でしょうか」と問いかけると一瞬スコープを細めてから「俺様がこんな埃っぽいとこに用があるかっての。お前だよ、お前!」と私の方を指差した。

「私…ですか?」

「ああ、ジェットロンがまた一機やられやがったからな。耐久力のあるビークルタイプを部隊に加えることにしたんだ。…お前、今日から俺様付きだかんな?」

「私がスタースクリーム様の部隊に?」

言外に「冗談でしょう?」という意味合いを含ませて呟くと上機嫌だったスタースクリーム様が明らかに機嫌を損ねた様子で眉パーツを寄せた。

「ァア?なんだよ。まさか俺様付きが不服ってんじゃないだろうな?!」

威圧的に爪をこちらに突き出してくるスタースクリーム様に慌てて首を振って否定の意を伝える。

「いえ!そうではなく!…ジェットロン部隊の中にビークルが入るなど異例だったので。それに私が選ばれるとも思いませんでしたから」

スタースクリーム様は私の言葉に漸く気を落ち着けると「あくまで試験的にだ!お前には撤退の時に地上から援護してもらうからな!」と念を押した。つまりしんがりということか…と右手にある恋人の腕を強く握ると目敏くそれに気付いたスタースクリーム様がヒステリックにパーツをひったくった。

「お前、後生大事に恋人のパーツなんて持ってんのか!破棄しろ破棄!今すぐだ!」

そのまま廃棄口にパーツを放り込むスタースクリーム様の背中を見つめて私は問いかける。

「彼が私の恋人だと、ご存知だったのですか?」

「当たり前だ!何のためにわざわざあいつを置き去りにしたと…」

そこまで喋ってスタースクリーム様はハッと口をつぐむ。そして何やら考え込んだあとでボソリと「お前を選んだのは俺様だ」と呟いた。その言葉にブレインサーキットがある可能性についての警鐘を鳴らす。しかし、一介の兵士である私にはどうしようもないことだ。ただ分かるのはこれから私が何機恋人を作ろうとも、そのことごとくがオートボットに破壊されるであろうことだけ。

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