短編
親友と絶交したからといってもそんな急激に人生が変わるわけでもない。
俺は白石が会いにこなくなったこと以外はいつもと変わらない日常を過ごしていた。

こうして過ごしてみると今までのことがよく分かる。
つまり俺たちの関係はずっと、白石が俺に会いにくることによって保たれていたのである。
俺から会いに行くことなんて滅多になくなっていた。
それが、現状だ。

…どうして白石はこんな奴にわざわざ付き合っていたのだろう。
以前と今を比べれば比べるほど、一層あいつのことが分からなくなっていった。
そんなこと、今となってはどうでもいいことなのだが。


そんなことをつらつらと考えていると高らかに昼休み開始のチャイムが鳴った。
今まで授業を受けていたクラスメイトたちが一斉に立ち上がってだらだらと昼飯の用意をしだす。
ナマエ、と俺を呼んだ友達に一声かけて購買へ向かう。
生憎と今日は母さんが弁当を作ることが出来なかったため購買飯だ。
府内でも有数のマンモス校である四天宝寺中の購買はもはや戦場だ。
気合を入れて階段を駆け降りると既にたくさんの人だかりが出来ていて慌ててその中に飛び込む。
激しい競争の末、なんとか焼きそばパンなど三つを買うと無理矢理人混みから抜け出る。

漸くほっと息をつくと突然あーー!という大声が辺りに響き渡った。
ぎょっとして振り返るとそこには大量のパンを抱えた赤い頭の後輩と思しき少年がこちらを指差して騒いでいた。
な、何なんだ。


「兄ちゃんあれや!白石とぜっこーした友達やろ!!あん後大変やったねんで!」


げっ!何言ってんだこいつ!

少年の言葉に周囲の白い視線が突き刺さる。
慌ててなおも騒ぎ立てる少年の手を引いてその場を逃げるように後にした。

最悪だ。
絶対広まる。
有り得ねぇ!

ぎゃあぎゃあ騒ぐ少年を人気のない廊下まで引っ張ってきて掴んでいた手を振りほどく。
鋭い目付きでその赤頭を睨み付けた。


「何なんだよ、お前!」

「お前やない!わいは遠山金太郎っちゅーんや!」

「知るか!なんでお前がその話知ってるんだっつーの!」


俺が怒鳴ると遠山は何故か胸を張って俺を見返した。


「やって白石、部活でわぁわぁ泣きながら喋っててん!テニス部ならみーんな知っとるで!」


…はぁ?


「(白石が、泣く?)」

「…んなわけあるかァ!」


あいつが俺と絶交したくらいで泣くわけがない。
俺がそう言った時だって笑ってたくらいなんだ。
そんな俺が白石の中でそんな風に泣くほど重要な存在であるはずがない。
だってそうだろ?
嫌だったなら。
本当に俺と親友だったなら。
殴ってくれても良かったんだ。
なのに笑ったってことは俺なんかどうでもいいってことじゃないのか?なあ!?


「わいは嘘なんかつかへん!白石はホンマに兄ちゃんのこと好きや言うとったで!なぁ何でぜっこーなんてしたんや?」


遠山が俺の顔を覗き込む。
真っ直ぐな瞳に俺は狼狽えた。
何でって、それは。


「金ちゃん!!!」


廊下に響いた声に勢い良く振り返る。
するとそこには噂の白石蔵ノ介が顔面を蒼白にさせて佇んでいた。


「何してんねん!!」


白い唇がわななく。
物凄い勢いでこちらに駆け寄ってきた白石は乱暴に遠山の腕を掴んだ。
痛いわ白石!と叫ぶ遠山を無視して白石はこちらを振り返る。


「金ちゃんが変なこと言うたかもしれへんけど、それみんな嘘やから!!ホンマごめんな!」


それだけを早口に言うと白石は暴れる遠山の腕を無理矢理引きずって嵐のように去って行った。
俺は呆然とその姿を見送る。

酷く、久しぶりに見た気がした。
あんなに取り乱した白石を。
硬直した淡い茶色の瞳が頭に浮かぶ。
一緒にいる俺と遠山の姿を見つめて、確かにあいつは凍りついた。

あの表情は何だ。
蒼白で、恐怖に震えるような。

…どうして。
なあ、白石。

お前。






(何を、考えているんだ?)


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