短編
部活が終わったあと意気揚々と例の親友を迎えに行った白石が、号泣しながら帰ってきた。


「おん?白石なんで戻…ってどないしたんやその顔!!」


最初に見つけた謙也の声にざわざわと周りの奴らが集まってくる。
俺も小春と一緒に様子を見に行ってみれば、いつものイケメン然とした涼しげな様子は見る影もなく、顔をどろどろのぐちゃぐちゃにしながら泣きじゃくる我らがバイブル白石の姿があった。


「なんやまたなんかあったんすか。面倒くさ」

「コラッ!光しっ!」


小春が白石を見ながら面倒くさそうに眉根を寄せる財前を叱りつけるが、俺も全くもってそう思う。

なんやこいつまたかいな。
面倒くさっ。

この白石蔵ノ介という男は自他共に認める完璧主義者である。
それはこいつのテニススタイルにも現れている。
まるでお手本のような無駄のないプレイ。
日常であれば模範生。
そしてこの完璧主義の白石の好きな奴。
それが例の親友であり俺のクラスメイトでもあるミョウジナマエだった。

白石が泣きわめいたり落ち込んだり引きこもったりする原因の八割はこいつのせいだ。
ずいぶん前にミョウジが彼女欲しいなーなんて呟いたときはそりゃあもうヤバいなんてもんじゃなかった。

阿鼻叫喚や。

当時を思い出して俺は心中で呟く。
ミョウジが居なくなった途端その場に突っ伏して泣きじゃくる。
梃子でも動かない。
どんなに慰めても聞かない。
何とか立たせて家に帰したと思ったら翌日から学校に来なくなる。
誰にも会わない。
飯も食わなかったらしい。
そのくせミョウジを連れて見舞いにいけば両手広げて歓迎する上に風邪拗らせてしもてなぁ、なんていけしゃあしゃあと嘘をつくのだ。

目ぇ真っ赤に腫らして何言うてんねん。
おかんのファンデーションで隠そうとしとんのバレバレやで。

しかもミョウジは全く気付かないときた。

白石居ないとつまんないから早く治せよ。

帰り際のそんな一言に酷く嬉しそうに笑って次の日から揚々と学校に来る。

アホちゃうか。
俺は毒づいた。

コートのど真ん中で未だ泣き続ける白石を見かねて小石川が慰めようとするが取り付く島もない様子である。
仕方なく小春と一緒に近づくが立ち尽くす白石を見て歩を止めた。
号泣するのはいつもと同じだが、どうも様子が違う。
涙でぐちゃぐちゃになった白石の顔面は蒼白で無表情だった。
いつも落ち込んだ時の情けない表情とも違う。
異様な雰囲気を敏感に感じ取った小春が心配そうに声を掛けた。


「蔵リン、何があったん?」


白石は虚ろに視線を彷徨わせて俯く。
はらはらと涙が散った。
辛そうに寄せられた眉はそれでもこいつの相貌を損なうことはない。
これはどうやっても他人には真似できない。
全てが整った白石だからできる仕草だった。


「…ってん」


消え入りそうな声で白石が呟く。
何や、聞こえんがな。

小春が無言で先を促すと白石はもう一度小さな声で、しかし先程よりは幾分かはっきりと呟いた。


「ナマエに、絶交されてん」


どないやねん。

この時、ここに居合わせた奴はみんなそう思ったはずだ。

お前ら親友やったんやろ。
白石にとっては複雑な立ち位置かもしれへんけど、いっちゃん仲ええんやなかったんかい。

あいつらが喧嘩するなんて正直いって有り得ない。
そもそも白石が喧嘩になるような行動をしないからだ。
完璧主義の白石はミョウジの前ではことさら。


「さっき、教室、で」


そもそも俺はミョウジのことをよう知らん。


「ナマエが、突然」


ミョウジはそない目立つ方やないし。
自己主張の激しい方でもない。
正直言うて白石と正反対のタイプや。


「ナマエ」


でも。


「喧しい、白石」


ミョウジの声音で言えば白石はピタリと泣き止んだ。
まるでパブロフの犬か。
単純な奴や。

呆れた顔で見つめれば俺の姿を捉えた白石は一瞬固まって、もう一度泣いた。
今度はいつもと同じように、くしゃくしゃの表情で。

お前ら親友なんやろ。
だったらさっさと仲直りしてこんかい。
喧嘩が無かったなんて今までの方がおかしかったんやこのドアホ。

考えたらムカついてきたのでもう一度ミョウジの声でどやしたら小春にえらい叱られた。
そない怒らんでもええやん小春。




(面倒やでさっさと元の鞘に収まりぃや!)
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