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!卒業後プロ忍伊作と元同級生くん
!敵同士での邂逅


言ってはいけない。言ってはいけないのだ。僕は彼方に広がる残状を見つめながらそう繰り返した。
「あなや」
そう言って彼が笑う。僕はそれに反応を返すこともできず震えた。その時の彼の表情!見たこともないように瞳を歪めて彼は歪に微笑んだ。泣きそうなのか?彼が?それとも僕が?夕闇は僕たちを置き去りにしてただ過ぎ去ろうとする。僕は縋り付くことすら出来ずにただ立ち尽くした。瞳に涙が溢れる。鮮やかな夕日だ。それすらもまた、彼を引きとどめることは出来ない。
「楽しかった」
彼が目を細めて笑う。
「本当に。ただ楽しかった」
だけど僕は悲しい。愛しい思い出の残滓を引き連れて夕焼けが去って行く。それを引き止めることも、追いかける術さえ僕は持たない。それが歯がゆくて。狂おしいくらい悔しくて。
「お願いだよ…」
零れ落ちる涙が、滲んでいく夕焼けすらも攫っていく。それでも君だけは失いたくなかった。これは僕の我が儘だ。分かっている。だけど。どうしても。
「ねぇ、僕の想い人」
まっすぐに彼を見つめる。涙の矛先は決して揺らがず、彼を射抜いた。悲しげな瞳が揺れる。
「時間切れだな」
静かな声は確かに掠れていた。濡れるような視線が絡み合う。恋しいよ。ねぇ。切ないよ。こんなにも焦がれる心を、一体如何して飼い殺せというの?教えておくれよ。愛しい男。
「忍の、時間だ」
逢魔ヶ刻が終わる。日が落ちて、月すら眠る夜がやって来る。それは僕たち、草の者が闊歩する時間。夜闇に紛れて凶刃が鈍く輝く。それを取り出したあなたは優しく微笑むとゆらりと忍刀を構えた。
「伊作、俺の想い人」
僕もゆっくりと苦無を取り出す。きっと、そう。僕は。
「俺は、お前が」
ああ、その先は聞いてはいけない。

奪われるのだ。彼が、命が、私の心ごと。
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プロ忍になった後で敵同士の伊作と元同級生くんが出会うお話。両片想い。夜は忍者のゴールデンタイムだから大好きな君でも殺さなきゃ、な心境のお二人。

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