「なぁアンタ…そんなにガッチガチに縛られちゃって、苦しくないの?」



靡く金髪に明るい夜の光が反射する。
口元には笑みがうっすらと浮かんでいる彼は靡く金髪と同様にだらしなく開けたワイシャツの襟も風に揺らしている。
金髪の彼、金時が見つめる先にいるのは路地裏に潜む黒髪の持ち主である、土方だ。
明るいネオンは路地裏には届かず、口元の煙草の火だけが赤く赤く存在を主張する。
何度かぶつけられた痕のあるガードレールに腰かける金時は前髪を見上げるように見つめながら指の腹と腹で弄る。
少し、傷んできた。
そう考えていれば風に乗って煙草の匂いが漂ってくる、その匂いは仕事場で嫌という程嗅いでいる筈なのに特に大した感想が浮かんで来ない、好きで も、嫌いでもない匂い。



「てめぇに言われる筋合いもねぇんだよ」



煙草の煙と共に届いた声は賑やかな街の声に消えてしまいそう、だが消えない。
金時を睨むその瞳の眼光も、消える気配はない。
くつり、金時は喉を鳴らす。



「わざわざこんなとこで隠れるように煙草吸ってるお巡りさんって仕事、大変そうだと思っただけだよ」


「…余計なお世話だ」


「顔だけはいいんだからよ、金さんと一緒にチャラチャラ生きようぜ…なぁ、土方」


「俺はてめぇとは違うんだよ」



煙をふぅーっと勢いよく吐き出した土方の指と指の間に挟まれている煙草はまだ長い。
路地裏の暗闇にその小さな煙草の赤い光が寂しげに揺れている。



「 そんな事知ってるさ」



金時はくつくつと肩を揺らして笑った。
ホストにとってこの時間は最も忙しく、店の顔でもある金時を今、あのケツアゴの彼が必死で探しているかもしれないというのに、金時は笑う。
彼の背後を勢い良く通り過ぎる車たちは止まる気配も彼らを気にする気配もない。
土方はチラリと金時に視線をやる。
笑っているからか、金髪がさわさわと揺れていた。
ち、土方は舌打ちを一つ、零す。
喫煙者には厳しい世の中になった今、わざわざ隠れるようにして吸っていたというのにコイツのせいで台無しだ、そう本音を吐き出すかのように、舌打ちを零した。
それに気付いた金時はゆっくりと笑いを止めて立ち上がる。



「なぁ土方、煙草が中毒性なら、」



キスも中毒性なんだぜ?
うっすらと浮かべた金時の笑みに土方が気付くのはしばらく後。
カツカツと高級であろう革靴を鳴らしながらガードレールから離れ、路地裏にいる土方に近付いた金時は、煙草をくわえる土方の手首を掴む。



「っ、な、てめ…」


「逃げんなよ」



両手首を掴まれ、そのままコンクリートの壁へと押さえつけられた土方。
くわえていた煙草がポロリと地面に落ちるが赤い火は消えていない。



「逃げんじゃねーよ」



まるで睨むような強い視線に、土方は思わず唾を飲み込む。
長かった煙草は今、金時の足に踏み潰されていた。
土方の唇は、金時の唇により塞がれていた。
押し付けるようなキスに、コンクリートに押し 当てられている手首がゴリゴリと嫌な音を立てて痛む。
角度を変えて何度も何度も噛み付くようなキスをすれば、鋭かった視線はゆるりと歪み、ピシッと伸ばされていた背筋は今や金時にもたれかかるように力が抜けている。
ピチャ、水音が路地裏に響くが、それはすぐ側を通った車の音にかき消された。



「土方くん、今すげーエロい顔してるよ」


「う、るせぇ…黙れ、この、マダオ、が…」


「黙るのはお前の方だぜ土方、」



土方の呼吸はすでに乱れているというのに、金時はただ笑みを浮かべ、再び何度も何度も何度もキスをする。
舌を絡ませ無理矢理唾液を流し込めば、土方の唇から溢れ出る唾液が顎へと伝い、それがまたネオンの光に照らされ妖艶に見せる事 を土方は知らない。
彼は今、鼻で呼吸をするので必死で、自分のきつく結ばれていたネクタイが緩まされている事にも気付いていないのだから。



「ん、ごちそーさま」



ちゅう、リップ音と共に離れた唇、銀色の糸が彼らの唇と唇の間で引かれたがそれはすぐにネオンの光を浴びて切れる。
はぁ、は、肩で呼吸をする土方はコンクリートに背中を預けたままズルズルと座り込む。
頬は僅かに、紅潮している。



「俺はいつでも向かいに行ってやるさ」



そう笑って、土方に背を向けた金時はヒラヒラと手のひらを振る。
座り込んだ土方の足元には先程まで吸っていた煙草が踏み潰されていて、土方は目を瞑る。



「…くそ、」



小さく悪態をつき ながら立ち上がった時にはもう既に金時の姿は夜の賑わいに消えていて、
舌打ちをもう一度零した土方が胸ポケットから煙草を取り出し火を付ける。
深く吸い込み、煙を吐き出し、
緩んだネクタイを締め直そうと手を伸ばし、土方の動きは止まる。



「お節介な野郎だなアイツは…」



誰もいない路地裏で呟いた土方の言葉は誰かに届く訳もなく、ただ闇夜に消えていく。
その場を去る土方のネクタイは、緩んだままだった。



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