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ゴーストなんぞに渡せるか!

 今日も授業ではペンやノートが宙を舞い、ファンタジー小説の要約のような歴史を学び、運動場の空には箒にまたがった学生が我が物顔で走っている。
 唯一常識が通じる部活動とイデアとのゲーム会だけが監督生のオアシスだったが、その内一つが潰れてしまった。なんとあのアズールまでもオバーブロットを起こしてしまったのだ。 事件の後始末に忙しいアズールは部活に暫く顔を見せていない。その所為で部活はもっぱらリモート開催に成り果てており、祝日たる本日に至っては連絡すら来なかった。
 久々にゆっくり過ごそうと、監督生はパジャマのまま天蓋を漁った。あれから何度かイデアの部屋に行った折、スマホもPCも持っていないと話したら「不便過ぎてありえない!」と型落ちのノートパソコンを貸し与えてくれたのだ(当然あのイデアの私物なので、型落ちと言えどもハイスペックである)。

「監督生くん!」
「う、うわっ不審者! ……じゃなくて、クロウリー学園長?」

 マジカメを見ながらうとうとしていた監督生は突然の来訪者に文字通りひっくり返った。女物のパジャマで警戒する彼女を怪しげな仮面が見下ろしている。事情を知らない人間が見たらすぐさま110番通報しかねない状況下で、クロウリーはゴホンと大きな咳払いをしながら「女の子なんですからもう少ししっかりしてください」と時代錯誤な注意を促した。

「わかってるならノックぐらいしてくださいよ。年頃の女子の部屋に急に入って来るとか、元いた世界なら訴えられても文句言えませんよ」
「残念ですがツイステッドワンダーランドではその限りではありません! ところで私、あなたの性別の件でお話があって伺ったのですが」
「あ、そうでした。薬もうすぐ無くなっちゃうんです」

 隔週秘密裡に受け取っている「性別入れ替え薬」のが金曜日中分までしか残っていない。監督生は乱れた髪のまま立ち上がった。
 今週はイデアと二人で追いかけている漫画の新刊が発売されるのだ。「薬ください」と手を差し出した監督生に学園長は呆れ顔で首を振った。

「どこかの誰かさんが無駄遣いするせいで在庫切れなのです。来週には準備できるのですが」
「……オーバーブロット事件のこと関係各所にリークしてもいいんですよ」
「そ、そう言うと思って代替品の準備はあるのです!」

 脅し紛いの監督生の台詞にクロウリーが慌てて指を鳴らす。ぼん、と煙を吹いて現れたのは重厚な木箱だった。
 ツイステッドワンダーランドに来てすぐの自分ならば目を丸くしていたのだろう。が、魔法の世界も慣れたものである。ノータイムで薬を受け取らんとする彼女の手をクロウリーが叩き落とした。

「いった! 体罰!」
「性転換薬、効果持続は四十八時間です。この薬は使用者の性別を完璧に入れ替える上にあらゆる魔法薬との併用が可能な神秘の薬!」
「いつものやつの上位互換じゃないですか。今度からコレにしてくださいよ」
「……そうも行かないのですよ。わざわざ『性別入れ替え薬』を用意する私の優しさをご理解頂けていないのですね。ああ、なんと嘆かわしい!」

 毎日のように服用している「性別入れ替え薬」は半日しか効果を持たないものの、名前の通り監督生の性別を「男」に入れ替えてくれる。効果時間以外に性転換と何が違うのか土台想像も付かない監督生に、クロウリーが膝を崩した。

「変身薬は禁忌だと授業で学んだ記憶はありませんか?」
「言われてみればクルーウェル先生がそんなこと言ってたような……」

 倫理上の問題もあるが、変身薬は多大なる副作用をもたらす。何と言っても身体の構成を引っくり返すのだ。性転換薬であれば子宮とか睾丸の形成とか、考えると確かに身体に負担があることは頷ける。
 一方の「性別入れ替え薬」は、服用時に体重が変わらないことからも「あくまで外観のみを入れ替え、人間からの認識に作用する薬」であると言える。幻覚に近いとか言う理屈はよく分からないが、監督生の身体を考えていてくれていたことは理解出来て、学園長の優しさに彼女は初めて涙を滲ませた。

「学園長って本当に優しかったんですね……」
「分かればよろしい! くれぐれも服用時の体調には気をつけて下さいね?」

 かくして監督生は、金曜朝に性転換薬に翌朝口を付けることになる。性別入れ替え薬とは比較にならない地獄のような後味に午前中は保健室で過ごす羽目になってしまった。

[newpage]

「監督生、今日なんかいつもよりデカくね?」

 金曜朝、完全な男としてホームルームに繰り出した監督生は早速エースからのツッコミを喰らった。それもその筈だ、今日の監督生は見掛け倒しではなく本物の「男」なのである。
 授業と部活動を終え、監督生とイデアは早速イグニハイド寮に向かった。未だ性転換薬の後味にえずく監督生を差し置いて、道中イデアはこれまで見たことの無いような笑顔を見せている。

「今日はやっと監督生氏にオルトの事を紹介出来ますぞ!」
「えっ、ほんとですか!」
「祝日のおかげで充電は十分できております故! とは言え急な不具合が出ると困るし夜更かしは厳禁なんだけど」

 機械の身体を持つ弟の話をイデアは事あるごとに繰り出している。毎週末に彼の部屋を訪れる監督生はしかし、その子が起動している場面に出くわすことがなかった。
 あのイデアの弟だから物静かで控えめな男の子なのだろう。今の自分の高身長に怯えられるかもしれない。緊張の面持ちで寮長室に入った監督生は唖然とすることになる。

「初めまして! あなたがオンボロ寮の監督生さん? 兄さんが言っていた通り、とーっても大きいんだね!」
「オルト、初めて会うんだから自己紹介しないと」
「そうだった! 僕はオルト・シュラウド。監督生さんのことなら兄さんからいっぱい聞いてるよ! ずっと会いたかったんだ!」
「……え、イデア先輩と全然キャラ違うじゃないですか」

 オルトが狭い部屋を飛び回りながら挨拶する。ボソボソ喋舌るイデアとは対照的にオルトは明るい。明る過ぎる。さながら太陽だ。くるんと宙を舞う姿が目に眩しい。 

「僕もオルトくんとずっとお話したかったんだ。これからよろしくね」
「うふふ、嬉しいな! 兄さんにこんな素敵なお友達がいて安心したよ! だって兄さん、ネットゲーム仲間以外とは顔も合わせようとしないんだ」
「せ、拙者はパンピーとの馴れ合いを好まないだけであって……」

 兄弟の力関係が微笑ましい。主にイデアの話題に花を咲かせる中、ともすれば余計なことを言い始めそうな弟の頭を撫でながらイデアは監督生に「シャワー浴びる?」と問い掛けた。

「今日は寮で浴びて来たんで大丈夫です。あ、オルトくん一緒に入りたかった?」
「兄さんにパーツを磨いてもらったばっかりだから大丈夫! それより監督生さん、スターローグの攻略しようよ!」
「やろうやろう! ってことでテレビ借りますね」
「またまたご冗談を。スターローグならば拙者も馳せ参じますぞ」

 青い炎に囲まれながらゲーム画面を前にする。今が一番楽しいかもしれないと監督生は心から感じていた。
 この世界に来て最初の内は「悪夢なら醒めてくれ」と毎晩祈りながら眠りについていたが、こうしてイデアと時を過ごすようになりいつしか「夢なら醒めないで欲しい」とさえ願うようになっている。今の生活があまりに眩しくて元の世界での生活を思い返す事もなくなっていた。
 監督生のプレイを批判していたイデアが顔を真っ青にして立ち上がった。

「拙者としたことが、漫画の新刊予約しそびれていた……」
「兄さんがそんなミスをするなんて珍しいね。僕がサムさんのミステリーショップまで買いに行ってくるよ!」
「オルトは駄目だよ。子供はもう寝る時間だから」

 ゲームに熱中していた所為で気付かなかったが、時計はすでに午前0時を回っている。「もっと監督生さんと遊びたい」と駄々を捏ねるオルトを窘めるようにイデアは壁脇の装置を促した。

「今度もっと長持ちするバッテリーに交換してあげるから」
「オルトくん、また来るから」
「絶対絶対、約束だよ? 監督生さん! ──スリープモードに移行します」

 まさに「電源を落としたように」オルトが静かに眠る。
 正常にスリープモードに移行した事を確認し、イデアはベッドに放ったパーカーと制服を引っ張り着替え始めた。

「こんな時間だし誰もいないだろうから購買部まで行ってくる」
「僕が代わりに行ってきますけど」
「拙者のミスだから監督生氏はゆっくりしてて。あ、その面はレーザーよりガトリングの方がオススメ」

 攻略情報を残しイデアは部屋を去って行った。
 思えばこの時、監督生はイデアを是が非でも止めるべき、そうで無くとも同行すべきだったのだ。

[newpage]

 イデアが帰って来ない。
 彼の運動能力を鑑みても、たかだか購買部に漫画本を買いに行くまでに一時間以上かかるのは異常である。オカシイ、何かあったのではないだろうか。
 学園の不良に絡まれるイデアの姿を想像し監督生は慌てて寮長室を飛び出した。真っ暗な学園内で青く燃えるイデアは目立つ筈なのに、高台から確認しても購買部への道のりを辿ってもその姿がどこにも無い。

「入れ違い……かな、戻ってみよう」

 一通り捜し終えた監督生はイグニハイド寮に戻ろうとするも、寮長室の鍵が閉まっている。こんな時スマートフォンの一つあればすぐに確認出来るのだが、監督生が持っている通信手段といえばオンボロ寮のパソコンだけだ。
 外出に疲れて寝てしまっているのかもしれない。そう思った監督生は寮に戻り「今日はお先に失礼しました」とメッセージを送り自らも眠りについた。

[newpage]

 イデアからの返信が無い。それどころかネットゲームの「最終ログイン時間」が十二時間前と表示されている。
 男の姿で迎える朝の新鮮さや寮内の掃除中に現れた非常識なゴースト達よりも監督生はその一件が気掛かりだった。

「ああ、今年もまたこの時期が来たのですね」
「たいへん! 兄さんがゴースト達に攫われちゃった!」

 嫌な予感程当たるものだ。イデアがゴーストに攫われた。
 オルトが投影する学園の監視カメラ映像を前に、監督生は正気を忘れてクロウリーの胸ぐらを掴んだ。正真正銘の男の姿であるからか、学園長の足が若干宙に浮いている。
 最初こそ怒りを露わにしていたオルトでさえも擁護に回る異様な場だ。グリムに至っては毛を逆立てて怯えている。

「花嫁の要望とイデアくんは、まあ……一致している訳ですから。仕方ありませんって」
「仕方無いじゃないんですよ! 大体知ってたんなら少しは対処法考えるのが教育者ですよね? なに呑気に嘆いてるフリしてんですか!」
「子分、落ち着くんだゾ!」
「グリムは黙ってて!」

 180センチ以上のスリムボディ、切長の瞳、清潔感溢れる美肌にキスしたくなるような印象的な唇。加えてキューティクル輝く髪質と、ゴーストの姫様が求める条件にイデアは一応合致している。自己肯定感の低いイデア・シュラウドを見初めてくれる存在は喜ばしいが、監督生の腹の中には全く別の感情が渦巻いていた。

「わたしはカタログスペックで男を決めるような女が一番嫌いなの!」
「監督生さん……?」

 男の姿であることも忘れ叫んだ監督生にオルトは不思議そうな視線を送り、クロウリーはやれやれと言わんばかりに頭を抱え、グリムは耳を伏せ部屋の隅で丸まった。

「あっ、えっと、僕はそう言う女が嫌いなんだ! ……って感じで、アハハ」

 元いた世界には彼氏のスペックでマウントを取る人間が少なくはなかった。身長に部活動での活躍、成績順位や今までに告白を受けた人数等、数値化された「彼氏様」自慢に辟易していたのである。
 女社会は単純で生々しい。そして「好き」は「その人に好かれている自分が好き」に入れ替わり、一度地味な男と付き合おうものならクラスカーストが一気に下がるのだ。

 そう言った付き合いを毛嫌いしながらも笑って誤魔化していた過去の自分と決別すべく、監督生はクロウリーを解放し宣言した。

「イデア先輩を救い出します! 幽霊なんだから塩とか撒けば除霊できますよね!?」
「はあ……。各寮長を召集しますので落ち着いてくださいませんか?」
「四十秒で呼び出してください!」

 兄の奪還を切望していたオルトですら今の監督生を畏怖して何も言えずにいる。しかし今回ばかりは他人の顔を気にしている余裕が無い。集められた学園の有名人らを前に監督生はいつしかこの場を仕切る番人になっていた。

[newpage]

「で、この騒ぎは何な訳? 俺ら急にゴーストに教室追い出されたんだけど」
「実は、今年もあの時期が来まして……」
「例のあれね。それにしたって騒ぎが大き過ぎると思うけれど」

 ゴーストにより学園長室まで追い出された監督生らは運動場への退避を余儀無くされていた。学園中にもゴーストが蔓延っていたらしく、そこには他の生徒達もいる。
 事情の説明には持ってこいの状況だ。監督生は早速学園長の小脇を突き説明を促した。

「実は、イデア・シュラウドくんがゴーストの花婿として攫われてしまいまして」
「シュラウド先輩が花婿……?」
「マジウケるんだけどー!」

 この学園でイデア・シュラウドと言えば寮長である以前に「絵に描いたようなオタク」であることの方が有名だ。
 異性どころか同性とすら上手く会話することができない。たまに現れたらボソボソと意味不明な早口で何かを呟いて一人で笑ったり怒ったりしている。機械の弟がいなければ何もできない小心者との認識は根深いらしく、「理想の花婿」とのギャップに運動場は爆笑の渦に包まれた。

「オイそこ、笑ってんじゃねえぞ! このままあの幽霊女の思い通りにさせて良いわけねぇだろ!」

 今は一触即発の事態なのだ。薄情な男子生徒達を前に監督生が一喝した。
 普段コトナカレ主義を貫くこの超長身がここまで感情を露わにするのは珍しい。鬼気迫る絶叫に運動場がしんと静まり返る。

「イデア先輩を奪還する為にオペレーション・プロポーズを決行する! 女の一人オトす自信も無い奴はナイトレイブンカレッジにいねえよな? 今から俺が呼んだ生徒は前に出ろ!」
「監督生キャラ違い過ぎね? 怖いんだけど」
「プロポーズ……? 別の生贄を用意するってことか?」
「エースにデュース、私語は慎め!」
「すんませんっ!」
「……これは大変な事になりましたね」

 まるで普段の監督生とは思えない言葉遣いや気迫にあのジェイドさえも苦笑した。緊迫した空気の中監督生は「ヴィル・シェーンハイト、レオナ・キングスカラー」と敬称も付けずに生徒をピックアップしていく。
 八名の名前を呼び上げた監督生はその般若のような顔を更に歪めた。マレウスがいない。

「あぁ? マレウスがいねえぞ!」
「監督生よ、落ち着け」
「リリアせんぱ……痛い痛い痛い!」

 音も立てずに監督生の背後に回り込んだリリアが監督生に関節技を仕掛ける。薬で作られた超長身は見る見る折り畳められ、彼女は地面をバンバンと叩き「ギブ!」と叫んだ。
 痛みのお陰で頭に昇った血が引いていく。女の敵は女であるがゴースト姫と前の世界で会った女子達は別物だ。

「……すみません。俺……僕にとってはイデア先輩は尊敬する大切な人で、怒りで我を忘れていました」
「分かればよろしい。して監督生、この人選の基準は何だ?」
「その質問には学園長である私からお答えしましょう!」

 ゴースト姫が婚約者に求める条件は多岐に渡る。しかしどれもが抽象的で、誰にでも当て嵌まるとも当て嵌まらないとも言えるものだ。
 その中で唯一数値化されているのが「180センチ以上の長身男性」という条件だ。オペレーション・プロポーズを決行するに当たって事前にクロウリーと打ち合わせた結果がこの八名である(もっともマレウスの参加は見送られることになるのだが)。

「つーか、なんで小エビちゃんはいねーの? この辺じゃ一番背ぇ高いのに」
「それは……」

 オトす相手はあくまで女性、その上ゴーストだ。女子である上に魔力を持たない監督生が参加するのはリスクが高過ぎる。
 と言う事情をぼかすべく学園長は「大き過ぎるのもどうかと思いまして」と監督生の頭を杖で小突いた。誰よりも大きな今の彼女の姿にさすがの生徒諸君も頷いた。

「それではオペレーション・プロポーズ、皆さんくれぐれも頼みましたよ!」

[newpage]

「人間! 何をぼんやりしている! さっさと指示を出せ!」
「あ……、今回はゴースト姫に断絶の指輪をプレゼントして強制的に成仏させるのが目的です」

 メンバー選抜中にオルトが買って来てくれた「断絶の指輪」を配りながら監督生が一人一人に頭を下げる。最初こそ監督生の態度に不満を漏らしていた生徒らも、今や口々に「自分なら余裕だ」「花嫁を上手いこと騙してやる」と本日の意気込みを語っていた。
 彼らをここまで焚き付けたのは監督生自身で、相手はイデアを誘拐した相手である。しかし監督生も女なのだ、これから一人の夢見る女子が心無いプロポーズを受ける事を考えると若干心苦しいものがある。

「一番手はレオナ先輩、その次はヴィル先輩で行きましょう」
「あぁ? 二番手まで決めるとは、俺様のことが信用ならねえってのか?」
「レオナくん、見苦しいよ。どうせ君では無理なんだ、僕に任せてくれ」
「レオナ『くん』だと? さっきからテメェ気持ち悪いんだよ!」

 一瞬で完璧な役作りを果たしたヴィルがレオナの肩に手を掛けてニヤリと笑う。相手はカタログスペックでしか男を見ない女ゴーストだ、本物の王子であるレオナや超有名モデルのヴィルからのプロポーズとあらば必ずそちらに傾くだろう。
 しかし監督生の読みは大幅に外れることとなる。レオナの態度は最悪だったし、五百年前に死んだゴースト姫ことイライザ姫にとって現代のインフルエンサーたるヴィルは「ただのイケメン」でしか無くあっさり却下のビンタを食らってしまった。

「……計算違いなんだけど」

 続くジャックも失敗したらしい。パチンと、小気味良い音が会場内に響いている。
 セベクの絶叫やトレイの歌、リーチ兄弟の論外で物騒な口説き文句を前に監督生は無い頭をフル回転していた。告白のシチュエーションで女子が一番ときめくもの、前の世界で友人達や少女漫画ではどのような条件が提示されていただろうか。

「第二陣を結成します! イライザ姫は夢見がちなお姫様、なので次は『ロイヤルソードアカデミーにいそうな男』をイメージしてください!」
「ぐ……確かにあの学園の男子は無駄にキラキラしていますからね」

 第二陣に名乗りを上げた生徒達は、具体的に示された「RSA生」に各々思うところがあるらしく、固唾を飲みながらも決起した。
 シャドーボクシングさながらに「キラキラした王子様」を練習する様は笑えるものがある。第一陣の失態を目の当たりにしているからか全員真剣そのもので、自己のプライドを賭けた良いプロポーズになりそうだ。

「最初はけーくんが行っちゃおっかなー」
「ケイト先輩はRSA生のマジカメフォロワーが多いみたいなので期待しています。よろしくお願いしますね」
「次はわしが行くぞ」
「リリア先輩はどちらかと言えば可愛い王子様ってことでイケそうですね!」
「監督生さん、僕にかかれば一発だと何故わからないのですか?」
「アズール先輩は結婚詐欺師にしか見えないので出来れば控えて欲しいんですが……」
「僕がクローバー先輩の仇を討つ!」
「デュースは、うん、がんばって」

 一部の人選には不安は残るが、RSAに過剰なライバル心を燃やす彼らならば奇跡を起こせるだろう。しかしこのアドバイスが「ある生徒の死」に繋がるとは、監督生はまだ気付いていなかった。

[newpage]

「俺はデュース・スペードだみゃー。エースと一緒にいる事が多いから皆エーデュースって呼ぶだがや。おみゃーの事が好」
「王子様はそんな口調で話さない!」

 ビンタを超えて発砲音のような乾いた音が会場に響いた。
 デュースは、「ロイヤルソードアカデミー生のようなプロポーズ」にあろうことかチェーニャの真似をし始めたのだ。

「あっははは! っひー! な、なにあれ! デュースのやつよりにもよってチェーニャさんの真似とか……っはははは! やば、笑い過ぎて腹いてー!」
「エース、お水飲む?」
「飲……ぐはっ! う、っひゃひゃ! もう、俺、無理……」

 あまりに場違いなデュースのプロポーズに、エースは笑い過ぎて真っ赤を通り越し真っ青な顔でのたうち回っている。水が気管に入っても尚笑い転げる彼は、呼吸困難に陥り保健室へと運ばれて行った。
 第二陣が失敗したとしてエースならばさり気なくミッションをクリアしてくれるのでは無いか。そう考えていた監督生の希望は思わぬ形で潰えてしまった。

「……エースが殉職しました。あとはルーク先輩、リドル先輩とエペルだけが頼りです。次は正装をしてテンプレート通りのプロポーズをお願いします」
「監督生、君は一体どういうおつもりだい?」
「はい?」
「君のせいでハーツラビュル寮の面目は丸潰れだ!」

 オペレーション・プロポーズ、その全指揮権は監督生にあった。
 監督生は女だから女子の気持ちがわかる。だからそのポジションにいるのだと理解しているのはクロウリーとグリムだけで、傍目からは「的外れな作戦で部隊を壊滅させる無能指揮官」にしか映っていない。勢いだけで着いてきていたこれまでの生徒とは異なり、リドルが冷静に監督生の不出来を指摘した。

「薔薇の君、こんなところで仲間割れは美しくないよ。ボロ小屋の君もオペレーション・プロポーズに参加すると言うのはどうだい?」
「ボロ小屋の君って失礼過ぎません?」
「確かにそれなら納得だ。今まで散々ボクらに指示を出していた君のことだから、素晴らしいプロポーズを期待しているよ?」
「え、あの、僕? でも二メートル越えの長身用のタキシードって無いだろうし、無理ですって!」
「IN STOCK NOW! 何なら愛らしいお嬢さんの為のウェディングドレスも用意しているよ」
「ちょっとサムくん! その件は勘弁してください!」

 この学園の大人達は監督生の正体を知っている。サムの口からポロリと出たセリフを誤魔化しつつクロウリーが彼女の腕を手繰り寄せた。
 第一陣のトレイ・クローバーの言う通り、寄宿制の男子校生徒が女性を口説くのは無理がある。女心を一番知るのは女、ならば監督生こそがオペレーション・プロポーズの一番の適任だ。

「監督生、どうするんだい?」
「……行きます、行ってやりますよ! ちびっ子の皆様は僕に着いてきてください!」

 イライザ姫に見初められた上で「実は女です」とネタバラシするのも良いかもしれない。私怨に満ちた監督生は首尾良くタキシードに身を包み、会場たる大食堂にその大き過ぎる歩幅を進めた。

[newpage]

「その結婚、ちょっと待った!」

 透き通るリドルの宣戦布告を皮切りに、四人が会場のドアを蹴破った。
 これまで音声だけで楽しんでいた会場内はゴシック調に飾り付けられているも凄惨なものである。地べたに転がる同級生や先輩に監督生は「うわ」と情けない声を漏らした。

「あなた達もわたしに求婚を?」

 初めて対面したイライザ姫はオンボロ寮に棲まうゴースト達とは打って変わって人間の面影が強く残っている。長い睫毛に大きな瞳、快活な笑顔を作る表情筋は生前の天真爛漫さを象徴するようだ。
 まさに生粋のお姫様であるが、気圧されてはいけない。気を持ち直した監督生は「イデア先輩はどこですか!」とほとんど絶叫のような声で尋ねた。

「イデア様ならそろそろお召し物の準備が完了する頃よ。……ほら!」
「か、監督生氏! さすがは僕のヒーラー! 君なら絶対に僕の為に来てくれるって信じていたでござる!」
「……え」

 喪服のように真っ黒なタキシードには薄らと柄が入っており、白い肌と細い体格を際立たせる。緩く結われた青く燃える髪はカジュアルながらも神秘的な色気を演出しており、金色に鋭く光る瞳を強調している。

「ホタルイカ先輩タキシード着てんじゃーん。意外とノリノリみたいなぁ?」
「俺らが来た意味あったのか?」
「ここここれは無理矢理着せられただけで断じて拙者の趣味ではありませんぞ! い、いいからさっさと僕のこと助けてよ!」

 王子様と言うよりは悪の幹部のような出立ちであるが、制服すらきちんと着用せず、いつ会っても同じロンTを身に纏う普段のイデアとは比較にならない。しかしそこはイデア・シュラウド、固まったまま台車に括り付けて運ばれる様はさながら築地の競市場だ。「まな板の上の鯉のようだ」とはアズールの感想である。 

「イデア様ったら、よっぽど監督生さんが友人として結婚式に参加してくれたのが嬉しいのね?」
「監督生氏は拙者専用のヒーラーです故! 麻痺状態も回復して窮地の拙者を救ってくれるに違いありませんぞ!」
「何言ってるか全然わがんね。監督生クンってイデア先輩とそんなに仲良がったんだね……」
「監督生の奴、ボドゲ部入ってから雰囲気変わったよな」

 同級生から送られる三、四歩引いたような笑顔が胸に痛い。複雑な心境を噛み砕く中リドルが「まずはボクから行かせてもらうよ!」とタキシードを翻した。

[newpage]

 プロポーズに失敗したリドルはイライザ姫からのビンタを受け「首を跳ねてやる!」と暴れ、それに同調するようにエペルの白馬が会場中を駆け回り、そんな地獄の沙汰の中ルークがポエムを読み上げるという奇天烈な状況になっている。
 ロマンチストなイライザ姫の事であるから、落ち着いた状況だったならばルークのプロポーズを受けていただろう。ただ事態は上手く運ばず、三人揃って頬に紅葉の痕を付ける中いよいよ監督生の順番が巡ってきた。

「監督生氏、拙者がゴーストになったらオルトの事を頼みますぞ……墓前には例の漫画の最新刊と来週最終話のアニメの感想と来年発売予定のゲーム情報とネトゲのログボそれから」
「……イデア先輩の事は絶対に殺しません」

 残弾は監督生一人、いわばこれは最終決戦だ。セーブもロードも無く真打ちは自分自身で、回答の如何でイデアの運命が決まる。
 意を決して監督生はイライザ姫の隣にその大股を進めた。一歩、また一歩と近付く超超身長はゴーストの彼女にも堪えるらしく、大きく右手が振りかぶられる。

「却下! 180センチ以上の長身男性を求めていたけれど、いくらなんでもあなたは大き過ぎるわ!」

 開口一番ビンタを喰らわせる予定だったのだろう。しかし高身長を極める監督生の頬には掠めもせず、空振りになった腕を掴む。ゴーストに触れられる事には驚いたがそれ程彼女の未練が大きいのだろう。

「まあ待ってよ。……イライザちゃん、今日が何の日か覚えてる?」

 掴んだ腕をソッと下ろし、監督生はイライザ姫の隣に腰掛けた。オペレーション・プロポーズ、トレイの言った通り寄宿生男子校に通う者らにとっては無理難題であるが、監督生にとっては簡単な話である。要は自分の理想のプロポーズを実演してやれば良い話なのだ。

 付き合いたての頃は君のお転婆っぷりに振り回された、初めてのデートで行った遊園地の写真は今でも宝物だ、君の手料理を食べられる僕は幸せだ。ありもしない思い出を反芻するように監督生が語る。
 ここまで話せば「設定」を理解したのか、イライザ姫もまた思い出話を始める。流れるような恋人同士の演出にさすがのナイトレイブンカレッジ生も息を巻いており鼻が高い。男子よ、これが女の求めるロマンチックなのだ!

「それで、イライザちゃん。今日が何の日か思い出した?」
「もしかして……わたし達がお付き合いを始めた日?」
「正解。プロポーズは記念日にしようって決めてたんだ。イライザ、僕のお嫁さんになってくれな──」

 ここがキメ時だ。立ち上がりイライザ姫の肩に手を掛けた瞬間である。パチンと、今までで一番大きな音が響いた。

「素敵だけどやっぱりダメ! デカ過ぎるし……何だかあなた、大切なことを隠しているような気配がするわ!」
「はあぁ? うわ、ほんとに動けないし痛過ぎる!」

 まんまと頬にビンタを食らった監督生はそのまま床に倒れてしまった。身長と体重が大きい分頭への衝撃が段違いだ。軽い脳震盪を感じる中「ガチっぽかったのに残念」と周囲の落胆の息が揃う。

「やっぱりわたしの王子様はイデア様だけ! あんたみたいに背丈だけの夢見がちな男子とは違うのよ!」
「……さっきから黙って聞いてたら散々ですね! わた……僕は、最初にも言ったけどお前みたいなスペックだけで男を選り好みする女が一番嫌いなんです!」
「監督生ちゃんなんかヤバくない?」
「止め……るのも怖いな。今日の監督生いつもよりデケェし」
「どの道今は動けんからのぉ」

 倒れたままの監督生は全ての鬱憤を晴らすべく叫んだ。

「やれ身長だやれ学歴だ、収入がいくら長男か否か、イケメン以外は門前払い。あなたみたいな女は彼氏のことが好きなんじゃない、『その男と付き合っているアタシ』が好きなだけなんだ!」
「そ、そんなことは無いわ! イデア様はわたしの王子様なの!」
「じゃあイデア先輩の何を知ってるんです? あの根暗オタクのどこに惹かれたんです? 確かに見た目は良いけどイデア先輩の中身に王子様要素なんて一つもありません!」
「イデア様はきっとわたしを大切にしてくれるわ! わたしが暴漢に襲われても果敢に救ってくれるに違いないんだから!」
「はいざんねーん、イデア先輩にそんな度胸ありませーん。せいぜい警察呼んで後日暴漢の個人情報ネットに晒すぐらいしかできませんけどー?」
「で、でもイデア様はきっと毎朝おはようのキスをしてくれるわ!」
「陰キャのイデア先輩にキスなんて百億パーセント無理です。何なら手すら繋げませんって。そもそも女子と目を合わせることもできないでしょうね! 折角顔が良いのに残念なもんですよ」

 結婚式会場と相なった大食堂に転がる面々の中、唯一純粋にイデアを救出せんと動いていたのは監督生だけのはずだった。しかしそんな監督生がこの場の誰よりもイデアを持ち上げながらも(事実上)馬鹿にしているから分からない。
 イデアの「助けに来てもらっている癖に横柄な態度」にヘイトを募らせていたオペレーションメンバーも最初の内は熱狂を見せていたが、あまりにドロドロとした言い争いにボルテージが下がり行く。

「お、おい……監督生、その辺にしとけって」
「シュラウド先輩の結婚を祝福しようぜ?」
「エーデュースは黙ってて! 僕は今このお姫様にイデア先輩の本当の姿を教えてやってんの! イデア先輩は素晴らしく優しくて無自覚イケメンで天才な方ですがイライザさんの王子様の理想には全く及ばないんです! ましてや僕らみたいな真剣なプロポーズなんて出来るわけありません!」

 友人らは勿論のこと、先程まで彼女を「僕のヒーラー」とまで称していたイデアでさえあまりの罵倒に固まった。

「わたしの愛する理想の王子様を侮辱しないで!」
「ゴーストにはわからないでしょうけど、人はいずれ老いてシワだらけになります。見た目は良くても性格が合わないなんてよくある話です。結婚は外見じゃなくて中身で決めろって母が常日頃から言ってました! イデア先輩のこと知りもしないのに好きだ愛してる結婚だとかほざかないでください!」

 本日数度目の監督生の絶叫に辺りが静まり返る。硬直する監督生を次に襲ったのは猛烈な羞恥心だ。一体何を言っているんだろう。
 水を打ったように静かな式場で、ポツリとアズールが声を溢した。

「残念ですが監督生さんの言う通りですね。お姫様、貴女がイデアさんに感じたもの……それは真実の愛でしょうか?」
「真実の、愛……」
「理想の王子様で無くとも構わない。真実の愛と言うものは意外と近くにあるのではないでしょうか? たとえばほら、そこの太っちょゴーストさんだとか」
「……チャビー!」

[newpage]

 かくしてゴースト姫は真実の愛を家臣に見付け、高らかに天に昇っていった。
 無事解放された丸太もとい生徒達は各々ガチガチに固まった身体を伸ばしたり迎えに来た寮生にこの度の事件を面白おかしく話したりと自由を噛み締めている。

「監督生さんありがとう! お陰で助かったよ!」
「あ、オルトくん……。僕は何もしてないから、お礼だったらアズール先輩に言って」
「ねえねえ、これからスターローグの続きやろうよ!」
「イデア先輩も疲れてるだろうし遠慮しとこうかなー……」

 状況が状況と言えどもとんでも無いことを言ってしまった。イデアの悪口を散々述べて説教をして、こんな状態で会える筈が無い。
 このまま有耶無耶にして今日はオンボロ寮に逃げ帰ろうと思っていた監督生であるが、オルトの「兄さんが戻って来たよ!」と言う声に気まずく目を伏せた。しかし残念なことに、現在の超長身状態の彼女の「俯き」とイデアの「見上げる」は合致してしまい言い訳が出来ない状況が出来上がる。

「あ、イデア先輩……生きててよかったです」
「監督生氏のおかげだよ。さっきログ見て気付いたんだけど僕が購買部に買い物に行ってすぐ探しに来てくれてたんだよね?」
「え、あ、……はい」

 揺らめく炎の先が桃色に揺れている。左胸の白百合をチリチリと焦がすイデアは「ありがとう」と不器用に笑った。

「監督生氏、断絶の指輪ってまだ持ってる?」
「あ、はい……サムさんに返しに行かなきゃ」

 ポケットに突っ込んだままの指輪をケースごと差し出すと、イデアは指輪を摘んでしげしげと眺めた。魔力の無い監督生にはわからないがこのアイテムはそれなりに価値があるものらしい。
 監督生を見上げながらイデアは「僕だってプロポーズの一つや二つできますぞ」と笑った。

「プロポーズごっこでもしてくれるんですか? 受けて立ちますよ!」
「……どこにも行かないで。僕とずっと一緒にいて」
「へ? あ、は、はい。……はい!?」

 決め台詞の後、断絶の指輪が監督生の左手薬指に嵌められる。と言っても今の姿では第一関節すら通らない。

「うわ激重感情キモッ……監督生氏の言う通り拙者にプロポーズは無理ゲーですわ」
「え、い、であ、せんぱ……え?」
「フヒヒッ、監督生氏もしかして拙者相手にときめいちゃったとか? 拙者恋愛ゲーの覇者故仕方ありませんな!」

 そう戯けて見せるイデアは、駆けて来た所為で若干髪は乱れているものの正装姿が彫刻のように美しい。ボードゲーム部で初めて会ったその瞬間を思わせる悩ましげな表情が彼女の心の根深い部分に刺さり、監督生はイライザ姫のビンタを受けた時の如く一歩も動けなかった。

「監督生氏? 大丈夫?」
「あっ、いえ、なんでも……ないです。ちょっとボーッとしてただけで」
「急に固まるから驚きましたぞ」
「……それにしても、えっと……言葉が過ぎました。すみません……でも先輩の事何も知らない女に連れて行かれるのが嫌だっただけで」
「それなんだけどさ」

 胸元の白百合を叩きながらイデアがもう一つ笑みを溢す。青白い光に照らされるその表情は、心なしか何かを諦めたような空虚さを醸し出していた。

「僕、家柄のせいで死者に好かれるんだよね」
「死者に……?」
「でも怖かった、ゴースト恐怖症不可避! 監督生氏のおかげで助かったでござる!」
「え、わっ!」

 ぐしゅぐしゅと目に涙を浮かべながらイデアが監督生に抱き付いた。身長差的にはここは彼女が先輩の頭を撫でるべきなのだろう。なのに指が一本も動かない。
 余程固まっていたのかオルトが「監督生さんが困っているよ」とイデアの腕を引いた。

「監督生氏、明日って時間ある?」
「あり、ま……すみません、明日はちょっと用事があって」

 思わず「ある」と答えそうになったが踏み止まる。性転換薬の効果はあと数十分で切れてしまうし「性別入れ替え薬」は日曜夜に届く予定だ。
 断りの文言ににイデアは残念そうな顔を見せた。それが心苦しく監督生の胸がいっそう詰まる。

「えっと、あの、イデア先輩……? ネトゲの連続ログイン切れちゃいますよ」
「ファッ! お、オルト、最大出力で鏡舎まで行ける?」
「うん! それじゃあ監督生さん、またね!」
「お、お疲れ様です……」

 ジェット噴流を残しシュラウド兄弟が消えて行った。その軌跡を見送り監督生もオンボロ寮に急ぐ。
 帰ると同時に性転換薬の効果が切れ、大き過ぎるタキシードが身体に被さった。新品の上着にはイデアの匂いがついているような気がする。

「グリム……わたし、ダメかも」
「子分がダメダメなのは知ってるんだゾ!」
「そういうのじゃなくてー! あーもうほんっと無理!」

 テストの点数は度外視するとして、監督生は決して馬鹿で鈍感な人間では無い。どちらかと言えば聡い方だと自覚している。

──イデア先輩のこと好きになっちゃったかもしれない

 目を開けていても閉じていても浮かぶイデアの姿に、監督生は自分の頬を何度も引っ叩いた。

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