別に不満があるわけではないが、投書をしてみようと思う。しかし不満がないので筆が進まない。ペンを片手に唸っていると、ハザマさんが戻ってきた。
「人の椅子に勝手に座らないでください」
「部屋に入ったこと怒らないんですね。不潔」
「どういうことですか……」
「どうせわたしのこと犯そうとか考えてるんでしょ、全部お見通しですから!」
「そういう品がないのよした方が身のためですよ。それとも願望でもおありなんですか?」
「別段」
不満の無い生活だ。お金にも時間にもさして不自由していない。ただ友人が少なくて恋人がいなくてスタイルが芳しくないぐらいで、あとは食堂で出るラーメンがいつも伸びているだけで、ついでにエレベーターが少ないから階段を登るのに苦労するぐらいでわたしは恵まれている。
「これが神の御力なんですね!」
「急に何なんですか、気色悪い。寝言言ってないでそこをどいてください。それと電話をするので出て行ってください」
「おお、神よ! この男の髪の毛をビリジアンにしたまえ!」
「ちょっと暗くなるだけじゃありませんか」
翌日ハザマさんの髪はビリジアンに仕上がっていた。理由を聞いても話してくれなかったので、おそらくこれは神通力によるものだろう。