アセムの矛盾 | ナノ

敵は本心の中に在り


「レリウスさーん、ヒントください」
「ナマエ=ミョウジか。先日の件ならば答えかねる」
「皆これだ。わたしのアホ加減をナメちゃいけませんよ!」

 事の発端たるレリウスさんを訪れている。訪問ついでに人形製作で出た大量の木屑とか粘度片の清掃をさせられるのも慣れたものだ。

「ところで最近不満は無いか?」
「不満だらけです! いろいろありますけど、最近ハザマさん輪を掛けて扱いが酷いんです! この前とかお休みだからお出かけしましょうって言ったのに人混みにはあまり行けないのでーとか言って部屋でだらだらすることになっちゃいましたし!」
「ほう、そうか」

 レリウスさんの奥さんはわたしより恵まれてるよなア、いっつも二人でいろんな支部に出張している。人形と人間ではあるけれど、旅先で美味しいもの食べたり不意にプレゼントを交換したりしているに違いないのだ。

「把握した。ナマエ、次の休日は期待しておけ」
「え? どういうことですか?」
「私はこの後会合を控えているので今日はここまでだ」

 もしかしてレリウスさんからハザマさんに何か言ってくれるんだろうか。大尉と大佐、力関係は歴然である。権力に屈したハザマさんが嫌々わたしを構ってくれるようになる、なんてのは不本意であるが何も無いよりは幾分以上に楽しみだ。





「ハザマ、たまにはナマエ=ミョウジに素直になってはどうだ?」
「私はいつでもミョウジに対して正直ですが」
「その割には当人は随分不服そうだが」
「ミョウジとそこまで話しているんですか……。仕方ありませんね、以後気を付けます」

 とは言え何をしろと言うのか。
 出掛けるかプレゼントでも買えと金を渡されたはいいが、こんな金(はした金という意味ではない)を使ってもと考えてしまう。第一自分は金がないわけではないのだ。
 しかし、裏がある事を前提にしても現実問題気を遣わせてしまっているので何かを購入しない訳にはいかないだろう。ミョウジの喜ぶもの、考えてみると聖書に十字架、仏像、数珠……

「どうしてこんな子に育ってしまったんでしょう……」
「ハザマさーんおかえりなさーい!」
「ただいま戻りました」

 屈託の無い笑顔を見せるようにはなった。しかしかと言って陰がなくなったかと言えばそうでもないし、例の神だのなんだのは勢いを増す一方だ。不憫なのはむしろ自分の方ではないか。

「ミョウジ、何か欲しいものはありますか?」
「あります!」
「ならば話は早いです。レリウス大佐からプレゼントでも渡せと命令されたんですよ。要望を言ってください」
「えーっと……」





「それでこれかよ」
「ユウキさん! まさか本当になるなんて!」
「ったく、ハザマもハザマだろ」

 ミョウジが強請ったのはあろうことかテルミさんだった。想像できたことではあるが、よりによって一番されたくない選択を彼女はこうも簡単に……テルミさんが一体どんな気持ちで私とミョウジを見ているのかは知らないが「ユウキさんに会いたい」と即答した彼女のお願いに難色一つ示さなかった辺り存外深くは考えていないのかもしれない。
 これまでミョウジとテルミさんが長く接することなどなかった。妙な関係であるが勿論不安はない。ミョウジにとってテルミさんはただの神様であって、彼女が愛しているのは私なのだから!(最近ミョウジの馬鹿が伝染した気がする)

「なんかこうしているとデートみたいですね。道行く子羊達にはわたし達が恋人同士に見えているに違いありません!」
「あ? ああ、そうかもなぁ」

 ニヤリと擬態語の聞こえてきそうな笑みはミョウジに向けられたものではない。テルミさんの高笑いが聞こえてくるようだった。こんなことなら身体なんて開け渡さなければよかったとか早速考える様をもテルミさんは笑うだろう。

「だったら今日一日は付き合ってるってことでもいいんじゃねーの?」
「嫌ですよ」
「は!?」
「いくら敬虔なクリスチャンでも自分とイエスがなんて考えられないものです。わたしだってユウキさんと仮初めでもその、こ、恋人同士なんか……!」
「おーい、顔がにやけてんぞ」

 ミョウジの考えていることがわからない。どうしてこんな育ち方をしてしまったのだろうか。





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