アセムの矛盾 | ナノ

末広がりの人生にて


 八回、八開、八戒、八階、八海、8という数字はやたら縁起がよくてキリもいいものだからあらゆることに使われていた。人生が八度繰り返されるなんて言葉遊びみたいなもんでどこにも情報源はない。
 レリウスさんから言われた台詞について、紙に8を書きながら考えども何もピンと来なかった。どれだけ途方も無いか、時間に直して計算しているとハザマさんから大量の書類を押し付けられてしまった。

「遊んでいないで印鑑を捺しておいてください」
「ハザマさーん、人生って長いもんですか?」
「一回きりで終わるのならば」
「何言ってるんですか。人生一回しかありません」
「転生などを考えているのならよしてください」

 今日のハザマさんは冷たいなあ。単純作業をしながら考えてみても、どうしても人生が繰り返されるイメージが湧かなくてわからなくなってしまう。そもそもどうしてレリウスさんはわたしにあんなことを言ったんだろう。
 ふと夢のことを思い出した。一度会ったかもしれないって、あれはもしかしたらわたしの前世の記憶なのかもしれない。魂に刻み込まれた、けれどわたしの他に誰がいたのか思い出せない。

「ユウキさんとわたしが前世で知り合いだったらいいのに」
「それならテルミさんがミョウジを気にかけるのも頷けますね」
「でも、そんな理由で助けてもらっても困ります。わたしはわたしだから」
「ですってよ」
「誰に話しかけたの?」
「独り言です」

 輪廻転生ってあるかもしれないけれどとても胡散臭い。一度きりだから人生は楽しいのだ。それに繰り返すって、二回目以降はつまらないに決まっている。

「もし同じように人生が繰り返せたらどうしますか?」
「成功するような立ち回りをしますが。ミョウジ、その後はコーヒーをお願いします」
「砂糖5個ぐらい入れますね。成功って何?」
「仕事の一大プロジェクトを。そんなにいりません」
「じゃあ3個。生まれ変わっても仕事仕事って社畜みたいですね」
「ブラックで結構です」

 もしもう一回人生をやり直せるんなら今とは全く違う生き方をしたいものだ。全然違うところでハザマさんと出会って、全然違う生き方ならこんなに世話を焼かれることもないだろう。ひょっとするとハザマさんより年上かもしれない。だけれど何故かユウキさんにはまた会うんだろうと確信している。

「何回生まれ変わってもハザマさんと出会いたい」
「プロポーズですか? 気が早いですよ」
「結婚するの?」
「戸籍問題が解決すれば」
「う、うわー、わたしも夫人ー!」
「いいから早くコーヒーをお願いします」
「旦那様!」
「婚約破棄しますよ」
「そんな殺生な!」

 何の話題でどうなるかわからないものだなあ。ハザマさんと結婚、とかこの前も考えたけれど本人を前にすると顔が赤くなっていってしまった。





アセムの矛盾
×
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -