年の瀬が近付くにつれそわそわしてしまう。12月は愉しげなイベントが目白押しだ。それも後半に極端に偏っているからいけない。11月から12月中旬にかけてのドキドキわくわくの無さときたら、この期間に子供が産まれるような調整をしたいとすら思う程である。
「十月十日……ハザマさん! 三月は盛り合いましょう!」
「はあ…………」
「そんな本気で引かなくてもいいじゃないですか」
「どこで間違えたのか真剣に考えていただけです。今後の参考にしますから」
「今後? 子育ての? ダメですよ。この時期だとクリスマス産なのがバレバレです」
「断じて違います」
クリスマスに盛り合うから秋生まれが増えるのだ。どいつもこいつも赤と緑にうつつをぬかしおって! しかしわたしはそんじょそこいらのミーハーとは違う。ユウキさんを信仰する傍ら年がら年中イエスも崇めているのだから、この期間に何をしようと主はその寛大な心で受け止めてくれるのだ。
とはいえただ単純にパーティ気分に浸るわたしではない。本来この日は主の聖誕祭だ。誕生日といえばケーキに輪飾である。クラッカーを鳴らして苦情を浴びないのも特徴の一つだ。わたしはクラッカーをこさえていた。
「……ミョウジ、私はもう何も言いませんよ」
「じゃあ加湿器かけるのやめてください。火薬が湿気ます」
「良い子にしていないとサンタクロースが来ませんよ」
「うわーうちの上司ってまだサンタさんとか信じてるぅーピュアー!」
「おかしいですね。昨年はこれで大人しくなったと言うのに」
「いつまでも純情を弄ばれているわたしじゃありません」
サンタクロースの正体がレリウス=クローバーであると知った衝撃は凄まじかった。しかし我が子は勿論のこと他人の子供まで気遣ってくれる最高のパパなのだと考えるといくらか心は落ち着いたのだが。やっぱり神やその使いなんて人間の仕業であるが、どこかの宗派での神はいるいない問題なんてわたしには結局どうでもよかった。わたしの神は実在する。
「今年はユウキさんのご降臨があるに違いありません」
「そうでした……今年のミョウジはもっと厄介なのを忘れていました」
「わたしにはクリスマスなんてとどのつまりどうでもいいんです! ユウキさんの生誕日がわかれば!」
「では今年はケーキは無しですね」
「ユウキさんの誕生日がわかれば!」
「プレゼントも無しですか」
「だからユウキさんの誕生日がわかれば!」
「これ以上妙な祝日を増やさないで下さい。イースターなんて知りませんでしたよ」
「物知らず」
「灰の水曜日なんて言い出した時には思春期を拗らせたのかと不安になりました」
「良い歳して銀細工ジャラジャラしてるハザマさんの方がよっぽどです」
「人の趣味に口を出さないで下さい」
だったらハザマさんもわたしの信仰に口出しをするのはフェアじゃない。この人はギンギラギンギンした鎖や輪っかを何個も集めている。輪っか、そうだ輪飾だ。書類を切り始めたわたしをハザマさんは目を見開いて制止した。
「さすがにそれは上司として許せません」
「保護者としては?」
「許せませんね」
「じゃあ恋人の立場で!」
「許せませんよ」
「上司と付き合うとこれだから困る」
「ついでに人としても許せませんが」
「安息の地が無い!」
「ミョウジ」
「はい!」
ハザマさんが改めて名前を呼ぶ時は真剣な話をする合図だ。頭に上った血が全身に行き渡るように冷静になって目を見る。いやあ目を見るなんて言ってもこの人は糸目なんですがね。
まじまじと見るとやっぱり非の打ち所の無い彼は、宥めるみたいに、それとちょっと悲しそうに話すのだ。
「次は恋人らしく過ごしませんか? いつまで経っても子供のような中身であることを悪いとは言いませんが、折角ですから私はミョウジと二人でゆっくり過ごしたいのです」
「ハザマさん……」
「それと」
いつもなら茶化すのはわたしの役割なのに、ハザマさんは似つかわしくない笑顔(誰かをイタズラっぽくからかうような)を見せた。
「カレンダー、来年のですよ」
「え」
「今日は26日です。来年への備えなどと言って早とちりをしたツケが回ってきましたね」
「え、恋人らしくは?」
「ですから次はと」
「一年間貴様を呪いながら過ごしてやるからな」
備えの所為で憂いがあった。いいやそなえていないからこそだ。当日になって慌てるなということを神(テルミさん)は説いている。
「主はいませり!」
「どんな拡大解釈をすればそうなるのですか」
「もしかして今心読みました?」
「読むのは不得意なので」
「来年は見てろよ!」
読むのが不得意ならば何だったら得意だというのか。別の記憶を刷り込ませるとか、そんなバカな。もし出来るんならわたしから嫌なこと全部忘れさせるプレゼントを仕込んでくれているはずだ。ハザマさんは昔っからそういう人なんだ。