アセムの矛盾 | ナノ

わたしとあなたの十戒


「図書館の前に部屋に寄りましたが……ミョウジ、部屋が汚いです」
「どこに何があるかはわかります」
「爪切り」
「へいお待ち!」
「耳かき」
「あらよ一丁!」
「セロハンテープ」
「ありません」
「U字磁石」
「はいただいま!」
「そんなものどうして持っているのですか……」

 部屋が汚いと言われても、このようにわたしは全ての場所を把握しているのです。
 戒律を決める為にと図書館に向かう道すがら乙女の部屋にずかずかと入っては、ハザマさんは顔を歪めた。開けっ放しの引き出しや、中身の飛び出たクロゼットや、床に散らばった筆記用具を指差してはきちんとしまえと小言を言う。

「貴女も神だ神なんだとおっしゃる割にはいい加減ですね」
「ユウキさんって放任主義ですし」
「ならばテルミさんから言われれば片付けるんですね」
「そりゃー勿論」
「おい、ナマエちゃん。随分と部屋が散らかってるが片付けもできねーんならもう顔見せてやんねぇぞ?」
「それユウキさんの真似?」
「似てません?」
「神はそんなこといわない!」
「言います」

 ユウキさんがわたしの部屋に来るなんて想像しただけで大掃除が三回はできそうだ。が、神はこんなところに降臨しない。とは言えわたしは神に頼っているばかりで、信者らしい質素な生活も謙虚な姿勢も見せていなかった。ならばやることは一つだ。

「契約の箱を開くからいいんです!」
「はい?」
「モーセの十戒です!」
「やはり道徳教育には持ってこいでしたね」

 図書館に向かいますか、とハザマさんは出て行った。この部屋では嫌だと暗に言われた気分だ。この後片付けよう。と言うより何故わたしの部屋を挟む必要があったのか。
 かくして図書館にて、おっちゃんが海を真っ二つにしている表紙の本を開いた。ハザマさんは椅子に座って脚を組んでいる。


1.ほかの神々があってはならない
「わたしの神様はユウキさんだけだからセーフです」
「最近はめっきり他の宗教に興味を抱かなくなりましたね」
「会える触れる神様の方が信じやすいし」
「ご当地アイドルのようなことをおっしゃる」

2.自分のために、偶像を造ることと、それらを拝むことを禁ず
「ユウキさんのフィギュア?」
「知り合いがフィギュア化されていたら気味が悪いですね」
「でも写真は欲しいです。神棚に飾る」
「早速神道の言葉が出てきましたが、1個目の戒律違反ではないのですか?」
「セーフです」

3.神、主の御名をみだりに唱えてはならない
「これは違反ですよ! アウトです!」
「ハザマさん嬉しそうですね」
「……何ですか」
「ノリノリで面白い」
「ミョウジが誘ったのではありませんか」
「言い訳だ!」
「最近まともに構っていないので申し訳ないと思っていたんですよ」
「……言い訳だ!」

4.安息日を聖なる日とせよ
「週休二日制?」
「原典の宗教ならば日曜だけの筈です」
「シフトが悪い。統制機構は神に反逆する気だ」
「(たまに確信めいたことを言うのは偶然ですよね)」
「安息日が欲しいです」
「私の腕の中で安らいで下さい」
「ハザマさん楽しそうですね」
「言いがかりです」

5.父と母を敬え
「ハザマさん」
「はい」
「超尊敬してます。リスペクトー!」
「ミョウジにとっての私って何なんでしょうね」
「父親であり母親であり兄でありこいび……わからなくなってきた」

6.殺してはならない
「現代では当然のこと過ぎてお話になりません」
「ちなみにこれ、神自身が破ろうとしていますよ」
「ハザマさんってユウキさんの知り合いでしたよね!」
「あの時の記憶が戻ったのですね」
「もう二度とノエルの料理は食べたくない」
「次を見てみましょう」
「ユウキさんに会わせて下さい」
「お断りです」

7.姦淫を禁ずる
「あ」
「あ」
「あー!」
「私だけのせいではありませんから」
「あー! もー!」

8.盗んではならない
「ハート泥棒は入りますか?」
「泥棒と言うぐらいですから一応盗みなのではありませんか?」
「だったらわたしはハザマさんのハート泥棒だ!」
「黙って下さい」

9.隣人に対する偽証をしてはならない
「レリウスさんがこの前女の人連れ込んでました」
「偽証をしてはなりません」
「本当です! チャイナ服のボインをたらしこんでました!」
「ああ、あれはいいんですよ」
「レリウスさん不倫してた」
「次です次」

10.隣人の家を欲しがってはならない
「普通欲しがらないよなあ」
「時代ですね」
「十戒ってちょろいです」
「複数個破っておいて言えますか」


 と言うわけでわたし達の十戒の検証が終わった。時代に即していないもの、当然過ぎて改めて決めるまでも無いもの、出来れば触れて欲しくないもの等々を編纂して後日わたし用にしてくれるらしい。なんて素敵なマイダーリン、当初の目的が何だったのかはもはやおぼろげであるがそんなこと構うものか。





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