アセムの矛盾 | ナノ

第一の啓示


 いい大人なので小洒落たバーで酒でも嗜みながら煙草を吹かそうと思う。まずはスーツを着て、思い付く限りの厚化粧をしなければなるまい。顔にパウダーを叩き、目の周りをぐるぐる黒く縁取りし、真っ赤な口紅をなすりつけて煙草屋さんに向かった。身分証を求められた。

「店主、こいつは未成年だ。騙されるな」
「騙されていませんが……」
「お前の目は節穴のようだな。公序良俗に反するならば統制機構少佐の名を以ってこの店を潰さなければなるまい」
「あの、身分証の提示を求めていますが……」
「粛清する! ええい、第零師団はまだか!」
「おい、その辺にしとけよ」

 神はいた。とは店主の言葉だろう。緑色の髪の毛を逆立てた彼は、この物騒な少佐の鞘を強引に引きちぎって(無論男性器の隠喩ではない)払い飛ばした。わたしにはその姿が堕天使ルシファーにも、タージマハルにも、ターヘルアナトミアにも見えたのである。

「貴様、僕のユキアネサに何をする!」
「標的変わってよかったですね。煙草ください」
「もう来ないでください」
「えー、とばっちりー」

 緑色の人はキサラギ少佐になんて目もくれないで人ごみに消えて行った。目立つのですぐに捕まって決闘を申し込まれていた。

「ということでユウキさんはいい人なんですよ」
「その話だけ聞くと、あなたは結局煙草を購入できていませんが」
「あ、そうだ。じゃあユウキさんも邪魔者ですね」
「それより何故名前を知っているのですか」
「えっと……だって背中に貼り紙つけられてたから」

 ハザマさんがレリウスめ、とか歯軋りしているけれどこの短時間で何があったのだろう。情緒不安定だなあ、気持ち悪い。





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