アセムの矛盾 | ナノ

君の為なら死ねる


「あ、ハザマさん。お仕事お疲れ様です」
「ミョウジ……! とりあえず手に持っているそれ、置いて頂けませんか」
「はいよ!」

 スーツの上着は脱いで、ベスト姿で足元はサンダルを履いている。帽子も被っていないハザマさんは、鍋を置いたのを確認するとなんとわたしを強く強く抱き締めた。この熱い抱擁にはさすがの通行人も釘付けだ。

「え、あの、なんですか?」
「心配させないで下さい!」
「でも手紙」
「家出か自殺したのかと、私は本当に……!」

 なんと物騒な! とかからかいたくなったけれどもハザマさんの表情は真剣そのもので、眉間にはシワが寄っている。心配というのは本当のことなんだ。
 大袈裟な態度にたじろぎながらも何も言えずにいた。ポツンと、一人だけ置いていかれているような気がする。淋しい。そうだわたしはたった二日間でも寂しかった。一人だけ難しいことをして、わたしがすることが無いことなんて知っているくせに連絡もしないで、仕事仕事ってわたしは一体何なんだ。

「淋しかった」
「ただの二日ではありませんか!」
「わたしなんていなくてもハザマさんは生きていけるんだなーって」
「そんなことはありません」
「わたしはハザマさんの為に生きるしか無いのに」
「でしたら」

 ハザマさんは、あの時みたいに真剣に目を見開いている。わたしも今日ばかりは真面目にハザマさんの顔を見上げる。

「私もミョウジの為に生きます。もう淋しい思いはさせません。ですからどうか心配させないで下さい」
「ハザマさん」
「はい?」
「シチュー食べませんか?」

 そこで茶化してしまうのがわたしの悪いところだ。何故こうなってしまうってそれは当然恥ずかしいからだ、照れ隠しだ。
 ハザマさんは安心したみたいに笑った。通行人はもういない。





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