わたしは迷える子羊だ。極小サイズの憎悪を圧縮したいたいけな畜生だ。そして憎悪はあまりに小さかったので消えた。
「ハザマさーん、温泉行きましょうよー」
「温泉だけは二度と御免です。他を当たってください」
「じゃあわたしがカグラさんと混浴でまぐわっても構わないっていうんですか。うわ、まぐわうって何だよ。不潔!」
「一人で盛り上がらないでください。私にもミョウジの馬鹿が伝染します」
「わたしはハザマさんの馬鹿が感染した末路ですよ」
わたしは救世主の頬を殴った隣人だ。豚肉は神聖な物なので食べない。牛は神だ。朝の蜘蛛は天の使いなので殺さない。
「ハザマさん、温泉行きましょう」
「だから行きませんって。マコト=ナナヤ少尉でも誘ったらいいでしょう」
「スタイルよ過ぎて劣等感でのぼせるから嫌です」
「絶壁ですからね」
「あーあ、そういえばこの間ユウキさんって人に会ったんですけどいい人でしたよ。緑で」
「(どうかしてる)」
「わたしは目の大きな人が好き」
「見開いて差し上げましょうか」
「うわー石になるー」
つまるところわたしは敬虔な宗教徒になりたいのである。神はいる。きっとそれはそれは神々しくて慈悲深いのだ。そして願い事をなんでも叶えてくれる。たとえば朝わたしを起こしてくれる。
ハザマさんは宣言通り目をパッチリ開いてくれていた。本人は普通にしているのかもしれないけれど睨みつけられているようで不愉快なのでわたしはまぶたをそっと摘まんだ。