アセムの矛盾 | ナノ

第四の喇叭


 照明を落とした部屋の中で、ハザマさんの姿はカーテンが遮りきらずわずかに漏れた光と暗闇に慣れた目でようやく見つけられる程度だった。でも多分わたしは恥ずかしくて目を瞑る。

「この服、ボタン多いんですね」
「や、やめるなら今のうちだからな!」
「この程度は障害にもなりません」

 制服は諜報部では活動の邪魔だからと与えられたコートにカーディガン、シャツのボタンがどんどん解かれていく。一つ一つ取り去ったら投げ捨てて、シワが寄ったらいやだなあと考える程度には現実から目を逸らしている。

「こっち、見てくださいよ」
「UFOがいるなら」
「生憎私しかいません」
「じゃあ嫌だ」
「淋しいじゃないですか。ほら、ミョウジ」
「ん? あ、え」

 残すところは下着だけのわたしに覆いかぶさって、ハザマさんはまたキスを仕掛けてきた。お父さんというか兄というか雇い主というか、長いことわたしの上官でしかなかった ハザマさんとこうして舌を絡ませるのは非現実的なことこの上ない。
キスの最中に薄目を開けると、なんとあのハザマさんがニコニコ笑顔ではなくしっかりまぶたを閉じていた。なんだかレアなもの見たし今日はよく眠れそうだ。

「今下らないこと考えましたよね」
「い、いえ」
「ならいいんですが。今は私のことだけ見ていればいいんですよ」
「いつもハザマさんのことばっかり見てましたよ。早歩きだし」
「だったらこれからもそうでいてください」

 最後の防御網もあっさり突破されて、晴れて半裸になってしまった。これは恥ずかしい。とうのハザマさんはと言えば帽子(と手につけてるよくわからないやつ)こそ被っていないものの、コートから何から着用したままだ。

「不公平です」
「脱がせてくださいますか?」
「やっぱいいです。不公平なぐらいがちょうどいいっていうか」
「対等に接しているつもりでしたけどね。そう思われていたなら心外です」
「自分の為だけに生きろとか言ったくせに」
「さて、そんなこと言いましたっけ」

 ハザマさんはわたしの額に唇を落として、首筋、鎖骨へと場所を変えていく。巨乳がどうとか言っていたし幻滅されるんじゃないだろうか。牛乳飲めばよかった。
初めて胸を揉まれた感想は、これでどうやって感じろってんだ、といった具合に思っていたのとはかけ離れていた。本の中の女の人は揉まれただけであんあん言っていたがそれは童貞の妄想である。
 とか思っていたら、乳首を舐められて情けない声を上げてしまった。ミミズさん、わたしと声を交換しましょう(あなた側からは特に何もいりません)。

「手、冷たくありませんか」
「ちょっと」
「ミョウジが子供体温なのがいけないんですよ。我慢してください」
「だったら言わないでください」

 かけられる声は確かにハザマさんのものだった。けれどやっぱり、あまりに浮世離れしていてもしかしたらこれは別人なんじゃないかとか思わずにいられなくなる。別人だったとしてもこれっぽっちも嬉しくないけれど。
 わたしが全裸にさせられたのはそれから間も無いことだ。やっとコートを脱いだ彼にただならない大人の余裕を感じた。

「繰り返しますが、私はちゃんとミョウジの事を愛していますから」
「わたしも好きです、大好きですよ! 正直愛でハザマさんに負ける気がしませんね! ざまーみろ! ばーかばーか」
「あんまり喚かれると恥ずかしいんですが」
「どうだ萎えたか!」
「ほら」

 投げ出していた腕が掴まれて、何かに当てられた。硬い。

「ふ、不潔!!!」
「それ、自分の姿を見たあとでも言えますか」
「言えません!」

 駄目押しでもう一度、愛していますと囁かれた。言葉を噛みしめる間もなく指が遠慮がちに入っていく。痛いと聞くけれどこんなのよゆ、無理だ。

「いたい! 痛い!!」
「黙ってください。仕方ないでしょう」
「無理です! それ以上入れないで!」
「あんまり騒ぐなら、次はもっと痛くしますよ?」
「………」
「素直ですね。痛かったらいくらでも泣いて構いませんので」

 世の中で一番はじめにセックスをしようと試みた人はオカシイ。痛さに涙が自然に流れるけれど、次第に慣れていくと妙な感覚が広がっていった。

「ぅ、あ……」
「ローションは無いので慣れてくださいね」
「これ、むり……」

 指を折り曲げられると身体が情けなく跳ねる。ぴくりと反応したところばかり重点的にこすり上げられて、何も考えられなくなっていく。

「ハザマさん、だめ、だめ! 一回とめ……!」

 ハザマさんは止めるどころか笑顔で動きを激しくした。こんなのがあとどれぐらい続くんだろう。加虐的な人だとは常日頃思っていたけれど、何か反応をする度面白そうに緩急をつけられて、月並みだがわたしはそれだけで何度か駄目になってしまった。





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