アセムの矛盾 | ナノ

第三の喇叭


 唇に触れた感触はすこしささくれていた。乾燥してるんだなあ、とか考えていると、ぬめりと舌が滑り込んできて、どうしたらいいものかわからないわたしは呼吸の仕方も忘れてしまった。

「う、……長い」
「それが感想ですか」

 一瞬とも一時間とも取れる時間が終わって、新鮮な空気を肺いっぱいに吸い込む。なんだかとても気恥ずかしい。死んだ方がマシだ。天に召されたい気持ちでいるわたしの側からハザマさんはまだ離れようとしない。

「もう一回しますか、下手くそ」
「望むところだ! 妖怪破廉恥おと……ん」

 憎まれ口も叩かせてくれない。ハザマさんの舌を今度は仕返しのように自分の舌で突っついていると、すぐに離されて睨み付けられる。

「今後の課題ですね」
「出来れば二度と受けたくない試練です」
「本心は?」
「ちょっとよかった」
「素直なところは長所ですよ」

 そうしてわたしは立ち上がったハザマさんの後ろをくっ付いて歩く。昔からわたしは、この背中を追いかけることぐらいしか脳がない。これじゃあ馬鹿にされるのも当然だ。

「どういうことかわかっていますか」
「本で見ました」
「そんなものを……どこにあったんですか」
「ハザマさんのベッドの下」
「うっそ、マジで?」
「いまのちょっとユウキさんに似てる」
「気のせいです!」

 ベッドに組み敷かれて、わたしは不本意ながらドキドキしている。緊張なのか酸欠なのか、さっきから顔が熱くて仕方ない。いっそ薬でも盛られていて欲しかった。

「まあ、全くの無知というわけでは無いのならその方が都合がいいんですがね。ただし」
「はい?」
「本のことは他言無用でお願いします」
「あ、手遅れなのですみません」
「(女性衛士からの扱いが酷くなったのはこいつのせいか)」
「これからは」

 割れながら恥ずかしい言葉を簡単に吐き捨てていたものである。意味を認識すると、今までの自分を殺してしまいたい。

「簡単に、犯されるとか不潔とか言えなくなっちゃいますね」
「それは好ましいです」

 ハザマさんはいつものようににこにこ笑った。この顔だ。普遍的なこの表情がいつもわたしを安堵させていた。





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